あした天気になあれ
青春・恋愛
完
0
秋の空/著
- 作品番号
- 1641912
- 最終更新
- 2021/07/28
- 総文字数
- 126,621
- ページ数
- 147ページ
- ステータス
- 完結
- いいね数
- 0
春の放課後、柔らかな青空の下。教室で少女が喚いていた。
「なんで喋った。あたしと主催者の世界なんだ、
お前みたいな部外者が踏み入ると穢れるんだよ」
少女は、よく知っている人だった。
いや、知っているつもりの人だった。
「……君は、誰?」
その人は、じんわりと、悲しみを孕んだ笑みを浮かべた。
「綸だよ。夜久綸」
「……違う、そうじゃなくて。
君自身は、誰?」
おれの問いに、その人はどうしようもなく美しく、
どうしようもなく静かに、微笑んだ。
「……おれはおれだよ。この世界の住人で、傍観者だ」
床に散らばる折れた絵筆、
部屋中に飛び散った色水、
破れたカンヴァス。
窓から射す光ときらきら舞う埃。
外の、草花が風に揺れ、
日が昇っては沈む様とは不釣り合いなそれらは
あまりに美しく時を止め、
荒廃した世界を創り出していた。
「大丈夫。君の世界は壊れたりしない。
見る人をそこに吸い込むんだよ。
おれは、この世界が大好きだよ」
夜空に散りゆく花よりも
野原に芽生える花よりも
涙と寂寥に潤んだそのぬくもりが
心地いい。
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