コンテストの結果発表が翌日に迫ったその日は、他の生徒にとっては夏休みを翌日に控えた日となっていた。おれたちは今日も、中庭で屯している。

 「夏休みかあー」と、押村さんが退屈そうに空を見上げる。「なんかやりたいことあるー?」と。

 「はいはーいっ」と青園が右手を上げる。その薬指に、もうサポーターはない。もう随分前に外れた。

彼女はサポーターが外れてから、家で気まぐれにピアノを弾いている。やっぱりピアノが好きみたいですと、将来はバーにでもいるかもしれませんねと無邪気に話した笑顔が、太陽のようで、大輪のひまわりのようで、眩しかった。青園が、自分の一部を見つけた瞬間だった。どうかこの光が消えないようにと願いながら頭を撫でると、綸に背中を殴られた。振り返った先の、拗ねたように目を伏せた顔が愛らしかった。

 「花火大会やりたいでーす」と青園が声を上げる。

 「花火大会?」と押村さん、「いいね」と日垣。

 「じゃあ私、昼間はバーベキューやりたいっ」と日垣が続ける。

 「おお、夏休みっぽい」と押村さんが乗る。「空と綸はなにかある?」

 何気なく「海」と言ってみたのが、綸と重なった。

 「おお、いいねいいね。ビーチバレーでもやろうか。バーベキューの具材代を賭けて」

 「ちょっと待って」とおれは押村さんへ手のひらを向けた。「五人分でしょ? 出費半端なくない?」

 「それくらいじゃないと本気でやんないでしょ」

 「待って待って。てか五人ってさ、チーム分けどうするの?」

 「一人審判」

 まあ私なんだけどと当然のように言う押村さんへ、青園がふざけんなと即座に苦笑する。だめに決まってるでしょう、と。

 「じゃあ、スイカ割りでもしようよ、夜に」と押村さんが立て直す。「夜?」「夜に?」と、青園と日垣が顔を見合わせる。「バーベキューの具材は全員で予算決めて出し合ってさ」と、押村さんはなんでもないように話を進める。「で、ビーチバレーではそのスイカ代を賭ける」

 「で、チームはどうするんです?」と青園。

 「やっぱり一人を審判にして、その人は端数分を出すことにしよう。百三十円ならチーム二人で五十円ずつ出して、審判が三十円」

 「どうせならゼロもう一個あった方が現実味あったなあ」と呟く青園に、人差し指を立て、「しーっ」と日垣が笑う。

 「端数ってどっから?」とおれは言った。

 「まあ、百から下じゃない?」と押村さん。

 「じゃあ、千六百円以上のスイカを買ってくれば負けたチームは得するわけだ」と青園が呟く。「チームは一人五百円ずつ、審判は六百円以上になる」と。

 「すごい悪いこと考えるじゃん」とおれは苦笑する。

 「よし、てなわけで」と腿を叩き、押村さんは立ち上がった。靴から踵を出す。

 「なにするんです?」と言う青園へ、「おまじないだよ」と押村さんは答える。それから、「実際には占いだっけ?」と苦笑する。

 「よーし」と気合を入れる押村さんに、「それ本当は下駄でやるんですよね」と青園。「これはおまじないだから」と押村さんは答える。「靴がどうなったらなんなんですか」と青園。「高く上がれば上がるほど、晴れる可能性が高くなる」と言う押村さんへ、青園は「これで明日雨が降ったら、先輩のこと“雨女”って呼びますからね」といたずらに笑う。

 手をぴんと挙げ、「いきまーす」と宣言して、押村さんは「そんじゃみなさんご一緒にっ」と声を張り上げる。

 「あーした天気になーあれっ」

 五人の声を合図に、押村さんの靴が高く飛んでいく。

 それを目で追いながら、「明日、晴れるかな」と言う綸へ、「きっと晴れるよ」とおれは答える。

 夜が明けた日、空はきっと、青い。


あした天気になあれ。