その昔、五年ほど前。好きな人がいた。「日焼けは痛いから好きじゃない」と話す、艶のある茶髪が似合う人だった。目元はどこかに愁いを孕んだように儚げで、唇は色水が滲むように紅く染まり、肌は透けるように白く、まるで、西洋画の美少女を、動く人形を、見ているようだった。

 彼女はとても不思議な人だった。おれが動く人形のように思えたのも、そのためかもしれない。見た目の美しさ以上の魅力が、彼女にはあった。

 彼女はいろんな笑みを持っていた。恥ずかし気な、嬉しそうな、楽しそうな。そして優しく、穏やかに、柔らかに。それに対して、怒りの感情を映した顔は見たことがない。目元の印象に反して、悲しい顔も見たことがない。まるでそういった感情を知らないかのようだった。

 いつか、テストの点が悪かったと笑っていたことがあった。「もう少し頑張らないと」と言って、ふわりと愛らしく笑った。悲しむ様子も悔しがる様子も見せず、感じさせず、ただふわりと柔らかく、軽やかに笑ったのだ。ああ、穏やかに育ったんだろうなと思ったのを覚えている。

 おれは開いたページの、絵の中の少女に触れた。茶色の髪に整った目鼻立ち、静寂の香る雰囲気。なんとなく、この少女に彼女と似たものを感じた。

 体を起こし、ベッドから脚を下ろして、ローテーブルに載った音楽プレーヤーを手に取る。イヤホンを着けて、ベッドにごろんと戻る。目の上に腕を載せて、楽器の音に耳を澄ます。