鏡の中の、今にも眠ってしまいそうな自分の顔から目を逸らして歯を磨く。今回も、休日は趣味に明け暮れた。写真を撮りに出掛けても散歩をしても本屋に行っても迷子には出会わなかったけれど、それなりに充実した休日だった。新しく買った本のせいで寝不足になるくらいには。

 鏡の中の目つきの悪い自分の顔を見やる。そう、それなりに充実した休日だった。それなりに。

 口をゆすぎ、スタンドに歯ブラシを戻す。その横には、ぺたんこになったハミガキの容器。貧乏性というか、けちくさいというか、残りの減ってきたハミガキとは毎度長い戦いになる。おれは最後の最後までなんとか絞り出そうとする。そんなことせずとも、すでに新しいものを買ってあるのに、だ。まだいける、まだ出る、と、必死に絞り出す。この一回分のために早く買うことになった一つのハミガキのお金で生地が買えると思ってしまう。

それで新しいブックカバーが作れる、栞も作れる。小物入れもペンケースも作れる。その時間の楽しみを想像すると、こういった細かいところにけちけちしだす。おれは至極平凡な男子高校生であって、進学を機に単身で上京したわけではないし、地方へ越したわけでもない。交渉するのも叱られるのも得意ではないので、アルバイトもしていない。日々、まじめにまじめに授業を受けるだけの高校生。それが、布地や端切れのためになけなしのハミガキを絞り出すのだ。