傷を洗い流し、止血して包帯を巻いた。意識を失うことはなく、おれはまだ、生きている。今からでも学校に行けば、中庭に出れば、高野山君に会えるだろうか。一度くらいは、お礼を言えるだろうか。どうしてか、今日、おれは学校を休んだ。連絡した時のことは覚えていない。それでも、学校を休んだということはわかった。そうして、気が付いたらここにいた。

 手当を済ませた今、どうしてここに戻ってきたのかはわからない。なんとなく、戻ってきた。自分の世界の終わりを見届けようと思ったのだろうか。もうだめだと、諦めたのかもしれない。もう、高野山君には会えない。お礼を言うこともできず、ただ、果たせない約束を彼の中に残して死んでいくのだ。

 彼との約束を知らないこの体は、これからどうするのだろう。これだけ手や腕を傷つけたのだから、絵を描くことはないのだろう。この体からそれを取って、なにが残るのだろう。少し考えて、ああそうかと思い出す。明美がいる。もう一人にしないと言ってくれた、明美がいる。おれにとっての高野山君のような、明美がいる。

 ふいに胸がざわざわと痛んで、思わずそこに爪を立てる。体を折ると、そのまま膝が崩れた。膨大な情報が流れ込んでくるような感覚がする。頭の中がうるさくて、空いた左手を頭に当てる。