放課後、押村さんと一階の廊下に出ると、東の方から歩いてきた静に会った。「お疲れ」と笑みを見せる静へ「お疲れ」と応える時、押村さんから緊張を感じ取ったのはおれだけか、静も同じか、わからない。

 「ところで、部長もどき」と静は言った。「部員もどきは、これ以上集めないの?」

 「どうしようねえ。あまり声を掛けてみようと思える人がいないんだよねえ」

 「そうなんだ。……部員もどきはどういう基準で選んでるの?」

 「私の直感」と押村さんは即答する。

 「ふうん。なにか魅力を感じるわけだ」

 「そう。仲良くなりたいなって思えるかどうか」

 「あたしとも仲良くしたいって思ってくれたの?」

 押村さんは、視線を足元へ落した。「そりゃあ、もちん」と静かに答える。

 「そうなんだね」と静は穏やかに言った。

 ふと立ち止まった押村さんを、おれと静は数歩先で足を止めて振り返った。

 「ねえ、綸」と言う押村さんを、静はそっと笑う。「怒ってるよ」と押村さんへ答えた声は、おれの知らない色をしていた。女性の声だった。

「すーごい怒ってる。あんたはあたしを憐れんでる。それが許せない。あんたは親戚みんなから認められてる。でもあたしは違う。それも許せない。でも、今更関係を断とうとか考えてるわけじゃない。あんたは精々、あたしの顔色窺って、ご機嫌とってちょうだい。……そうやって、仲良くしましょう。ね、明美」

 そう言うと、静はいたずらに笑っておれを見た。「多分、綸はこういう人」と、こっそり教えてくれた。その声の奥に、これでおれが消えても綸は困らない、というような気が感じられて、悲しくなった。考えすぎだと思いたい。