外では心地よい風が吹いていた。天を仰ぐと、どことなく小型犬のようにも見える雲がゆっくりゆっくり流れていた。

 「おお、とせちゃん発見」と押村さんが言う。押村さんとは今日も一緒に昼食を摂ったけれど、いつもとなんら変わらなかった。いとこの女の子のことを後悔しているようだけれど、なんとなく、彼女こそ壊れてしまうのではないかと思う。

 押村さんは、青園の座っているベンチに近づいて、「よっこいしょ」と言って青園の隣に腰を下ろした。おれもその近くに立つ。

 「よくきてくれたね」

 青園はふうと息をついた。昨日の別れ際の愛らしさがすっかり消えている。

 「帰ってもやることないんで」

 「そうだよねえ。かと言ってさ、本当の部活に入るっていうのもなんか違うしね」

 「なにも考えたくないんですよ」

 「それはそれは。考え事っていうのは疲れるよ。放課後くらい、なにも考えないで過ごさないと」

 「……本当、迷子なんですよ」

 「迷子?」

 「昨日、押村先輩が言ってたじゃないですか」

 「うん、言った」

 「本当にそうだなあって思って」

 「なにか悩み事、あるの?」

 「悩みはないです。むしろ、悩みがないのが悩みというか。いや、正確には、悩みがわからないのが悩み、ですかね」

 「わからない?」

 「私、なんかもう、自分が何者なのかとか、わかんないんですよ」

 青園がついた、はあという息はため息に聞こえた。