「高野はすごいね」と、押村さんは言った。腕の間に軽くなった巾着袋を置き、両手ではお茶のペットボトルをべこべこといじっている。販売機じゃ売り切れてて売店まで行ってきたよと笑っていた。

 「綸って、人見知りっぽい上にちょっと冷めてるんだよ」

 「……そうなの?」

 おれの知っている綸はそうではなかった。人懐っこくて、いつもにこにこ笑っているような人だった。

 押村さんは悲しげに微笑む。「そうなんだよ」と。

 「高野は、綸とはいつ会ったの?」

 「初めてってこと? それなら……小学生の頃かな。何年の頃かは覚えてないけど。四年生くらいの頃にはもう仲良かったよ」

 「そっか」じゃあそうだよねと、押村さんは呟く。「綸が笑うようになったのは、小三の頃なの」

 「……そう。おれは、綸のことなにも知らないんだ」

 「それでも綸は高野といることを選んでる。逃げる私を見もしないで」

 本当にそうなのだろうか。

 「……綸は、そのことを覚えてるのかな」

 「え?」とおれを見た押村さんの目には、忘れるわけないでしょうと言うような強い光があった。

 「忘れてるんじゃなくて。いや、言い方が悪かった。そんなに、気にしてるのかなって」

 押村さんは目に宿した強い光を消して、俯いた。「どうだろうね」と悲しい声を出す。

 「もう、無関心なのかもしれない」

 というより、知らないんじゃないかな、とは、言えなかった。それはおれがなんとなく感じているだけで、綸に直接訊いたわけじゃない。当然、そう伝えてくれとも言われていない。

 「謝りたいな」と押村さんは言う。「許しを請うつもりはないし、そんなことで自分を許そうなんて考えてないけどさ」

 「……押村さんのしたいようにするべきだよ。綸もまた、自分のしたいようにするだろうから」

 そうだねと、押村さんは静かに頷いた。