休日が妙に長く感じられた。本を読んでいても、音楽を聴いていても、散歩をしていても、時間が経たなかった。絵を描いていても、料理をしていても、だ。おれの日常は、すっかり学校生活に重点を置いていた。

 常に、どこかで押村さんと綸のことを考えて過ごした。もしも明々後日、押村さんがいなかったら。明後日、押村さんがいなかったら。明日、押村さんがいなかったら。毎日、想像する度に怖くなった。「やあ少年」と言う軽い調子の声が聞きたくなった。

 水栓を捻って、歯ブラシをスタンドに戻す。

 もしも今日、学校に押村さんがいなかったら――。想像して、呼吸が震えた。押村さんが壊れてしまう様が妙に現実的に想像できて、恐ろしい。

 大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせて、通学路を歩いた。きっと今日も、「やあ少年」と言って絡んでくると、信じた。大丈夫、きっと大丈夫。

 昇降口を入ると、「やあ少年」と明るい声がした。押村さんだった。無様にも泣きそうになった。

 「やあ……少女」

 「なんだい、冴えない顔して。せっかくの美貌が台無しじゃないか」

 「美貌って……そしたら周りの人はどうなるの」

 「下手な謙遜は嫌味になるぞ」

 「事実だし……」

 いつも通りの押村さんを見て安心するのに、こんな風に無理して、いつか本当に壊れてしまったらどうしようと恐れる自分が、どうしようもなく面倒くさい。