本に載っている、美しい少女の画。この一枚には、綸に似たものを感じる。おれは指先で、その画を撫でた。

 綸が綸じゃない。いや、実際には綸なのだろうけれど。背は伸びたようだったし、顔立ちも大人っぽくなっていた。髪型も少し変わっていた。それでも、姿は、顔立ちは、どこからどう見ても綸だった。庇護欲を煽るどこか物憂げな笑みも、白い肌も、茶色の髪も虹彩も、人形のような美しい顔立ちも、「日焼けは痛いから好きじゃない」と言っていた夜久綸だった。

 変わってしまったのだ。小学生の頃からは、がらりと。話し方も、声の出し方も、表情の作り方も、変わってしまったのだ。

 教室の棚の叫ぶ音が蘇る。そして、あの少女の――綸の怒声。そりゃあ、綸だって一人の人間だ。怒ることだって泣くことだってあるだろう。ただおれが、彼女の笑み以外の表情を知らなかっただけだ。

 怖い、と思っている自分がいる。綸が、得体のしれないなにかが、怖い。激しい怒りのままに少年に迫っていた綸が、あるいは彼女をそうさせた、おれの知らないなにかが。

 押村さんならどうするだろう。彼女ならきっと、少年に迫る姿を見た後でも、綸に手を差し伸べる。笑顔の奥でこちらを振り返っている愁いも、感情に壊されてしまいそうな彼女も、すべてを受け止めて、大丈夫、大丈夫と語り掛けるのだろう。

 ふと、綸の笑みの奥で、目の奥で、こちらを振り返るなにかが蘇った。強い感情と欲望が全身を駆け巡る。護りたい。抱きしめたい。

 自分の心中を理解した途端、笑いそうになる。なんだ、簡単じゃないかと。おれは綸が好きなのだ。結局、それ以上でも以下でもない。ただ、狂おしいほど、大好きなのだ。あの愁いを孕んだ笑みを、透き通った、なにも持たない笑みに変えたい。どんな風に笑ったっていい。その内側が悲しんでいないのなら、なんだっていい。