その土曜日、おれは二杯のレモンティーを挟んで、綸と向かい合っていた。あれから今日までの間に、綸は何度も、生きていると言った。自分が今、生きていると。ありがとう、と言う微笑みは、小学生の頃と比べると随分控え目だけれど、綸の本当の笑顔はこうなのだろうと思うと、堪らなく愛おしかった。悲しみの見えない笑顔に、おれの方が泣きそうになった。胸の奥が温かくなった。ああ、綸が笑っていると。
「今は、絵のコンテストってやってないの?」
「なんで?」
綸が紅茶と一緒に持ってきてくれたショートケーキを口に入れると、旨っ、と声が出た。誰が選んだと思ってるのと、綸はいたずらに微笑む。そんなせりふにも、少し慣れてきたようだ。
「……また、描いてみればいいのに」
「嫌だよ」と綸は思い切り顔をしかめる。「あたしには綺麗なものなんか描けない」と首を振る。
「綺麗なものを描こうとしなくていい。綸の見てる景色を、綸の中にある景色を、ありのまま描いてみればいい」
「ええー?」
「今まで、そんな風に描いたことなかったでしょう?」
「そうだけど……。じゃあ大賞取れなかったらどうする?」
「いや、取れるよ」
「根拠は?」
「おれがそう言ったから」と、綸は声を重ねてきた。
「本当、空は明美そっくりだ。根拠のない自信に満ちてる」
「……夜が明けたその日、空は何色だろうね」ふと気が付いて、言ってみた。
「さあ、灰色じゃない?」と綸はいい加減に言う。
「それを確かめてみようよ」
綸は一口紅茶を飲んで、ケーキを口に入れた。様子を窺うようにちらとおれを見ると、深くため息をついた。
「今は、絵のコンテストってやってないの?」
「なんで?」
綸が紅茶と一緒に持ってきてくれたショートケーキを口に入れると、旨っ、と声が出た。誰が選んだと思ってるのと、綸はいたずらに微笑む。そんなせりふにも、少し慣れてきたようだ。
「……また、描いてみればいいのに」
「嫌だよ」と綸は思い切り顔をしかめる。「あたしには綺麗なものなんか描けない」と首を振る。
「綺麗なものを描こうとしなくていい。綸の見てる景色を、綸の中にある景色を、ありのまま描いてみればいい」
「ええー?」
「今まで、そんな風に描いたことなかったでしょう?」
「そうだけど……。じゃあ大賞取れなかったらどうする?」
「いや、取れるよ」
「根拠は?」
「おれがそう言ったから」と、綸は声を重ねてきた。
「本当、空は明美そっくりだ。根拠のない自信に満ちてる」
「……夜が明けたその日、空は何色だろうね」ふと気が付いて、言ってみた。
「さあ、灰色じゃない?」と綸はいい加減に言う。
「それを確かめてみようよ」
綸は一口紅茶を飲んで、ケーキを口に入れた。様子を窺うようにちらとおれを見ると、深くため息をついた。