中庭へ向かう途中の廊下、押村さんと青園が、数メートル先で揉めている。

 「タッたー、ですよ」

 「たっター、でしょう」

 「いや、なんで最後上がっちゃうんですか。せっかく綺麗な曲なのに、途端に土臭くなるんですけど」

 「いや訛りとかじゃなくて。てか誰が田舎くさいじゃ。いや違う違う、実際、あの曲はたっター、なんだって」

 「おかしいじゃないですか。盛り上がりに盛り上がって、最後すっと音が落ちるのがいいのに。なんで最後微妙に上げるんですか」

 「そういう曲なんだってば」

 「嘘つけよ、ダサすぎでしょ」

 「おいこら、こんでも私先輩だぞ」

 ふんっ、と青園が嘲る。「たかだか一年くらいで」

 「一年の差はでかいぞ。私が歩いてる頃に、とせちゃんはおぎゃあだもん」

 おぎゃあおぎゃあ、と挑発する押村さんに、「うるせえ、田舎者が」と青園。「残念でしたあ」と押村さんも引かない。「私は生まれも育ちもここなんですう」

 「うわ、そう見えないんですけど。明らかに土のに匂い混じってますよね」

 「芽吹きの香りと言ってくださる? 土は生命の源よ」

 「どっちかっていうと水の方がそういうイメージなんですけど」

 「ねえ」と、おれの隣を歩く静が言った。「びっくりするくらい論点ずれてるよね。なにについて話してるの、あの人たちは」

 「なーんだろうねえ」とおれは首を傾げる。「まずはなんかの曲っぽかったよね。最後で音が上がるとか下がるとか」

 「だよね、そう思ってるのおれだけじゃないよね」

 「うん」

 「それが今、なんだって?」

 「生命の源がどうとか」

 「土とか水とかね。間に一年の差がどうのとかも入ってた。……で、音楽は?」

 「演奏、終わったんじゃない?」

 「そういうことでいいのかな」

 「そう……思いたい」

 「わかる」と頷く静へ、おれも「わかる」と頷いた。そして同時に笑うと、二人がばっとこちらを振り返った。反射的に表情を直し、静と一緒に歩みを止める。「こーっわ」と静が苦笑する。「わかる」とおれは頷いた。

 「あっ、いたいた。間に合ったー」と女子の声がして振り返ると、日垣が走ってきた。おれと静の後ろで足を止め、膝に手をついて弾んだ息を整える。顔を上げると、「あれ?」と前の二人を見た。

「どうしたの、この険悪な雰囲気?」と言うので、「わかる?」と静と声を重ねると、「わかる」と日垣は頷いた。「やばいっしょ」と言うおれに、「十秒後には撃ち合いでも始まるんじゃない?」と静が続いて、一緒に笑うと、日垣は「いや本当、どうしたのあの二人?」と小さく笑った。

 「たっターだって言ってんじゃん」、「いや、だから――」と、前の二人が議論を再開するのが聞こえる。