高校生活二年目のクラスは二組だった。このクラスには、不思議な女の子がいる。まるでお人形さんのようにかわいく、美しい女の子。私は、彼女が誰かと一緒にいるところをほとんど見たことがない。

 放課後、まだ照明の点いている二年二組の教室。私は、その少女と二人きりでいる。二人きり、といっても、彼女は自席で寝ていて、私は探し物をしている。話をするわけじゃなければ、目が合うこともない。けれど、変な緊張感がある。私には、彼女がどんな人なのかわからない。他人の本性なんてわかるわけがないと言われてしまえば、そう言ってしまえばそれまでだけれども、それではまとめきれない不思議さ――それも恐ろしさと言ってもいいようなものが、彼女にはある。

 ふうー、と息を吐く音が聞こえて、ぎくりと見てみれば、彼女が体を起こし、座って俯いていた。ショートボブとボブの中間のような形に切られた髪の毛が、その横顔を隠していて、なんとも言えない不気味さを醸している。

 ふと顔を上げたかと思えば、彼女はこちらを見た。どくん、と心臓が跳ねて、それと同時に息を吸い込んだけれど、喉は鳴らなかった。

 ふわりと、しっとりと、彼女は微笑んだ。それが美術作品のように美しく儚げで、それがまた恐ろしい。

 彼女は、「誰もいないね」と、どこか困ったように声を放った。中性的な声。

 「……夜久さん、眠ってたから……」

 彼女は少し考えるように俯いた後、「そっか」と言った。そしてまた考えるようにして、「帰らないの」と言う。抑揚のない話し方をするのでわからないけれど、多分私は、尋ねられたのだと思う。

 「……そろそろ、帰ろうと思ってるよ」

 彼女は黙って立ち上がり、鞄を肩に掛けた。その何気ない動作さえ、怖く感じる。

 「なにか、仕事」と彼女は言う。

 「えっ……?」

 聞き返してしまうと、彼女は困ったように、悲しそうに、考えるような顔をした。「先生に、なにか頼まれたとか」と、探り探りといった様子で言う。

 「いや……そういうわけじゃ……。さ、探し物、してて……」

 「そっか。……なに探してるの」

 「えっ、あっ……家の鍵……が、なくて……」

 「そっか」と彼女は言う。口癖なのかな、なんて考えるのは、彼女に興味があるからなのか、彼女の雰囲気に気圧されて、意識だけでも逃げ出しているのか。