馳月基矢さんのレビュー一覧

いとおしいその色に、輝き続けてほしいから
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鮮やかに澄んだ茜色。 それは自分とは違う色だと、茜は思う。 マスクに依存して顔を隠し、本心を隠し、言いたいことを言わず、やりたいことを見付けられない。 優しく瑞々しい青磁色。 それは彼らしい色だと、次第に気付いていく。 初めて会ったはずなのに茜の何もかもを見抜く目をして、嘘つきだ嫌いだと言い切り、茜を傷付けた彼だったけれど。 我が強くて自由な青磁に引っ張り回され、茜の目は、身のまわりに溢れる美しい色と風景を知り始める。 絵を描く青磁の目に映る世界は、なぜこんなにも輝いているのか。 その理由に触れたくて、ただ青磁の側にいたくて、茜の心が大きく動き出す。 美しい情景と絵、怯えて揺れる茜の心、芽生えていく初めての恋を、細やかに描写する筆致が魅力的。 誰もが皆、茜のように、わずらわしいけれども嫌いになれない日常の中で生きている。 茜への共感が、頑張る元気をくれた。

2017/05/03 06:06
青春・恋愛 300ページ ・総文字数169,361
窓越しに憧れた青空を、今、きみと。
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ひたむきに空を飛ぶ彼はとても美しい生き物で、一目で好きになった。 次の瞬間、彼こそが、親友が想いを寄せる人なのだと知った。 親友と一言で済ませられないくらい大切な彼女のために、「私」は、恋する想いを消そうと決めた。 人とコミュニケーションをとるのが苦手で少し臆病な遠子が、絵を描くことを通して、恋のキラキラした気持ちや切なさ、嫉妬、苦しみ、いろんな感情に気付いていきます。 色鮮やかなその文章表現が美しく、胸に迫ります。 遠子が恋する彼方の棒高跳びのシーンもまた、遠子の目に映るままに丁寧に、自由に、輝かしく描写されています。 彼方という少年と棒高跳びという競技の魅力が語られ、ストーリーに圧倒的な説得力を与えているように感じました。 切なくてまっすぐで爽やかな、始まったばかりの恋の物語です。

2016/11/18 17:04
青春・恋愛 140ページ ・総文字数71,249
年齢差、15歳。ふしぎで優しい同居生活。
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無精髭を生やして、ぶっきらぼうで、無愛想。 でも、本当はとても優しくて不器用。 柔らかな染め物をする、32歳のおじさん。 学校が楽しくない祈は、不登校を続けるある日、唐突に、デザイナーの母の元部下だというそのおじさんのもとで生活することになった。 高校生にとって日常であるはずの「アッチ側」と、新鮮で居心地がいい「コッチ側」。 2つの価値観を見比べながら、ときに胸の痛くなる出来事に遭遇しながら、祈は自分と向き合っていく。 学校に行かないのはワルイコトなのか、仕事ばっかりの母への正直な気持ちはどこにあるのか、将来が何も見えない不安をどうすればいいのか。 おじさんは祈の疑問に丁寧に答えてくれるわけではないけれど、祈はおじさんのそばにいることで、自分なりの答えを探していく。 後悔は、必ずある。 だから、有意義な後悔を。 でこぼこな二人が少し切なくて、けれどとても爽やかな物語でした。

2016/09/23 01:04
ヒューマンドラマ 183ページ ・総文字数126,567
あの日、来なかった君を、今も思い出すよ
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大学一年生のころ、「僕」は渡に出会った。 どこか斜に構えて不機嫌そうで、影を背負ったような、独特な雰囲気の渡。 純文学をきっかけに次第に仲良くなった「僕」と渡は、ありふれた友達同士として、ひと夏をともに遊ぶ。 海へ行こう。 朝からママチャリを漕いで。 約束を交わす二人に訪れる悲劇に、胸を締め付けられました。 渡の背負った罪悪感と因縁、祈り、愛、悲しみは、彼自身の口からは決して饒舌には語られません。 本質的には明るい渡の諦めきった表情は、だからこそ、なおのこと強く印象に残ります。 一人の女性を愛した二人の青年の、ともに過ごした短い青春の記録です。

2016/09/12 13:52
青春・恋愛 146ページ ・総文字数82,894
廃墟の教会に、切なさの調べが重なって
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何かとても大切なことを忘れている。 高校生になって充実し始めた日々の中で、美冬は気付いた。 知っているはずのことを思い出せない。 知らないはずのものを大事にしている。 読み進めるごとに、美冬の消えた記憶、雪夜の背負った十字架の謎が明かされていきます。 クラスメイトの嵐や梨花の明るさと強さに背中を押されながら、悲しみに向き合う美冬の心の成長が、胸に残りました。

2016/09/11 00:37
青春・恋愛 303ページ ・総文字数168,668
暗闇に差す一条の光にすがり続けた心は
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レイラの心は揺さぶられる。 悪魔のように美しく冷酷なロックシンガー、リヒトに囚われ続けた7年間。 子犬のように懐いた年下のルイが、抑えきれない想いのままに抱きしめてくれたぬくもり。 リヒトの強烈なまばゆさの前にひれ伏すことが許されるなら、幸せな恋などいらないと思っていた。 ルイのぬくもりこそ残酷で、孤独の冷たさを知らしめられたレイラは、もう一人でいられないと気付いてしまう。 愛する人に、愛されたい。 だんだんと自分の望みに気付いていくレイラの行く手に、分かれ道がある。 レイラは、どちらを選ぶのか。 切なく、寂しく、限りなくいとおしい気持ちになれるラブストーリーです。

2015/12/17 13:03
青春・恋愛 250ページ ・総文字数131,266
さあ、その臆病な価値観に風穴を空けろ
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学園という世界は格差によって成り立っている。 成績の順位が貼り出され、劣っていれば見下され、救いの手など差し伸べられない。 ヒエラルキーは絶対的で堅強、且つ普遍的。 その構成員は、己の役割を果たさねばならない。 ……本当に、そうだろうか? 成績が劣るあの人には、何の価値もないのか? テストの点数で測れない特技や個性は、嘲笑の対象か? 格差を超えた人間関係は、形成されてはならないのか? 本当に、ヒエラルキーこそが学園の価値観のすべてなのか? 疑問を胸に抱いたなら、 心に秘めた思いがあるなら、 言葉をぶつけたい相手がいるなら、 自分自身と本気で向き合いたいなら、 語って伝えよ。 伝わるとは限らない。 全部を壊せるとも思えない。 それでも、伝えたいと動き出したときから、確かに変わり始めるはずだ。 そんなクーデターを、私も起こしてみたかった。 胸の熱くなる青春小説です。

2015/10/12 02:58
青春・恋愛 151ページ ・総文字数134,951
だれも教えてはくれないけれど
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「普通」に埋もれて生活する「あたし」 自分は「普通」なんかじゃない もっと「特別」な存在なんだ そう叫びたいのに 爆発しそうなくらい叫びたいのに くだらないと感じる毎日 閉塞感と自殺願望 だけど何もできない 堂々巡りの閉塞感と自殺願望 「生きる意味」を問いながら、もがいてみようとしながら、吹っ切れない現実に嫌気が差す。 そんな身に覚えのある苦しみや叫びが、歯切れのいいテンポの言葉で綴られています。 ふらりと授業を抜け出した屋上には、普通っぽく見えて普通じゃない児島がいました。 彼の言動に、思想に、度肝を抜かれてください。 そして、あなたなりの「生きる意味」に触れてみてください。

2015/09/17 01:57
青春・恋愛 24ページ ・総文字数8,223
「恋する変人」平安時代編
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「虫ほどかわいいものってなくない?」 「メイクとヘアアレンジで騙されちゃう男ってどうなの?」 「コオロギ柄の服とか、すごいかわいい!」 利発な美少女であるにも関わらず、虫マニアでマイペース。 恋バナよりもラブソングよりも虫の研究が大好き。 男子でさえドン引きするような毛虫の集団に、一人で目を輝かせる。 ニックネームは「虫姫」。 こんな女の子、21世紀の常識から考えても、ちょっと変わり者すぎます。 ここで描かれる虫姫は、現代の女の子ではなく、平安時代の短編集『堤中納言物語』に登場する姫君です。 でも、現代の尺度でも「変な子!」と感じられるから、虫姫のかわいらしさが際立ちます。 お相手となる彼もまた、相当の変わり者。 突き抜けた変人カップルの恋模様に、にまにま必須です。

2015/08/28 23:12
歴史・時代 52ページ ・総文字数29,331
海と鎖と、空の彼女と、鍵の彼と
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「私」は15歳、最近マイブームの一人称は「ウチ」、キレイな髪はちょっと長め。 父は緩やかに家出中、母はピリピリ帯電中。 いつのころからか、泣かなくなった「私」。 笑うことも怒ることもできず、体調が悪くなるから教室には行けない。 保健室登校の毎日で、話せる相手は保健の先生と幼なじみの正彦くらい。 家出中の父に会いに行ったとき、父の元恋人・ナツの手掛かりをつかむ。 ナツは素直で泣き虫で、それでいて大人の女性だった。 ひょんなことから仲良くなり、旅行に出かける「私」とナツ。 まるで空のようなナツは、あくまで凪いだ海であろうとする「私」に、生きるヒントをくれる。 「私」はどんな心を押し殺したがゆえに、体に変調をきたしたのか? 隠し続ける感情を誰にぶつければ、心の鎖は解き放たれるのか? ナツの手紙が告げる最後の一行が、「私」と彼の間に結ばれた友情の切なさと強さと深さを物語っています。

2015/08/24 21:19
青春・恋愛 282ページ ・総文字数53,292
爽やかで真っ直ぐな
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平和が訪れた現代だからこそ、自分に正直に生きられる。 生きる道さえ歪められた戦時中の彼らに恥ずかしくないように、自分に嘘をついてはいけない。 精一杯、自分の夢を大切に、生きなければならない。 両親の都合や感情や思惑に左右されてしまう現代っ子の涼。 特別な体験を経て、真剣で誠実で不器用に生きる百合。 ありふれているようで、とても特別な二人の出会いが、真夏の光のように鮮やかに描かれています。 前作『可視光の夏-特攻隊と過ごした日々-』からの流れで読むと、惹かれ合う魂の運命が切なくて、同時に優しくて希望に満ちていて、やり切れないような気持ちにもなりました。 二人の未来が幸せなものでありますように。

2015/06/28 00:37
青春・恋愛 121ページ ・総文字数48,026
「守る」覚悟
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何を守るのか。 なぜ守るのか。 守ることは、戦うことなのか。 命を散らす意味は、何なのか。 70年の時代を超えて、終戦間際の夏へと一人迷い込んだ百合。 そこで出会う人々の思いがけない優しさと明るさ。 けれど、そこは確かに戦時中の貧しい社会。 彼らを取り巻く価値観は、百合の目には「狂っている」と映る。 若い兵士たちの心情――死への恐怖と、それを上回る誇りや覚悟。 彼らの恋と愛、笑顔と涙。 読むならば、覚悟してください。 戦への怒りと悲しみに誠心誠意向き合った作者様の覚悟を無為にしないで。 この物語を、どうぞ心に刻んでください。

2015/03/13 00:31
青春・恋愛 220ページ ・総文字数107,803
ネタバレ
少しずつ近づいて、そして
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2015/02/23 16:16
青春・恋愛 265ページ ・総文字数90,648
ピュア、という言葉が似合う彼
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どうやら彼は、一般人とは違う次元に生きているらしい。 日常生活のあらゆる場面で「めんどくさい」を連発する。 こんなんでやっていけるわけ? と、世話を焼きたくなったら、ヒロイン・橘さんと一緒に、変人な大学院生・南くんに心を惹かれてしまいます。 橘さんもまた、しっかり者に見えて、本当に乙女でかわいらしい人。 だんだんと見えてくる南くんの本心は? 「めんどくさい」の裏側にある本性は? さらりと読めて心が楽しくなる短編作品です。

2015/02/19 00:09
青春・恋愛 70ページ ・総文字数25,510
素敵にコミカルなオフィスラブ
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傍若無人、傲岸不遜、俺様毒舌。 仕事では誰より有能で意欲的、しかもルックスも抜群。 嫌みったらしいように見えて、実は子供っぽいくらい正直。 デレるのが極端に苦手なツンデレさん。 そんな俺様男の蓮見だけど、ほんとは清水ちゃんのほうが一枚上手じゃないでしょうか? 素敵にコミカルな2人の関係は、いつまでも読んでいたくなります。

2015/01/20 10:22
青春・恋愛 385ページ ・総文字数130,752
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