和風ファンタジー
九条 蓮/著

- 作品番号
- 1792385
- 最終更新
- 2026/09/28
- 総文字数
- 125,191
- ページ数
- 26ページ
- ステータス
- 未完結
- いいね数
- 3
「蔵も南向きでございましたので、日当たりがようございました」
人と人、人と家とを結ぶ力──〈結(ゆい)〉。
七つの年、子らは水に浮かぶ五色の糸で、その力を量られる。
伯爵家の次女・柏木絃羽の盥では、糸が、結ばれた端からほどけていった。
〈解け〉──結べぬ者。家の結びを緩めると忌まれ、絃羽はその日のうちに屋敷の蔵へ移される。
以来十年。外から閂の掛かった蔵で、誰も彼女の名を呼ばなくなった。
それでも絃羽は、今日も元気だった。
冷めた飯は、よく噛めば甘い。炭の来ない冬も、四股と腕立てを繰り返せば朝まで保つ。
「筋肉は、裏切りません!」
これが、彼女の座右の銘だった。
そんなある日、書庫の整理を名目に絃羽を引き取りに来たのは、宮家の嫡男・氷室篝だった。
触れれば相手を壊すほどの結びを持ち、十年、手袋を外したことがない男。
〝触れずの殿下〟と呼ばれ、誰にも近づかず、誰も近づけない。
けれど絃羽は、平然と彼に近づく。
冷えきった部屋に火を入れ、飯を炊き、食べない男に膳を出す。
──助けられる側のはずなのに、彼女のほうが先に手を伸ばしてしまう。
そして、その手に触れても、絃羽だけは壊れなかった。
篝は、少しずつ気づいていく。
この娘が「少し、寒うございました」と言うとき、それは凍えたという意味だと。
「静かな冬でございました」と言うとき、火もなく、誰とも口をきかなかったという意味だと。
絃羽は怒らない。恨まない。自分が何を奪われたのかも知らない。
だから、代わりに怒るのは殿下のほうだった。
「お前が怒らないなら、俺が怒る。お前が怒らない分まで、全部な」
柏木家の帳面に、毎年の秋、欠かさず記された『蔵 炭』の一行。
炭が蔵へ届いた冬は、指で数えるほどしかない。
その金は、どこへ消えたのか。
そして、自分のためには決して怒らない娘が、ただ一度だけ怒ったのは──?
誰にも触れられなかった男と誰にも見つけられなかった娘が、
手を取り合うまでの大正浪漫・和風溺愛ファンタジー。
人と人、人と家とを結ぶ力──〈結(ゆい)〉。
七つの年、子らは水に浮かぶ五色の糸で、その力を量られる。
伯爵家の次女・柏木絃羽の盥では、糸が、結ばれた端からほどけていった。
〈解け〉──結べぬ者。家の結びを緩めると忌まれ、絃羽はその日のうちに屋敷の蔵へ移される。
以来十年。外から閂の掛かった蔵で、誰も彼女の名を呼ばなくなった。
それでも絃羽は、今日も元気だった。
冷めた飯は、よく噛めば甘い。炭の来ない冬も、四股と腕立てを繰り返せば朝まで保つ。
「筋肉は、裏切りません!」
これが、彼女の座右の銘だった。
そんなある日、書庫の整理を名目に絃羽を引き取りに来たのは、宮家の嫡男・氷室篝だった。
触れれば相手を壊すほどの結びを持ち、十年、手袋を外したことがない男。
〝触れずの殿下〟と呼ばれ、誰にも近づかず、誰も近づけない。
けれど絃羽は、平然と彼に近づく。
冷えきった部屋に火を入れ、飯を炊き、食べない男に膳を出す。
──助けられる側のはずなのに、彼女のほうが先に手を伸ばしてしまう。
そして、その手に触れても、絃羽だけは壊れなかった。
篝は、少しずつ気づいていく。
この娘が「少し、寒うございました」と言うとき、それは凍えたという意味だと。
「静かな冬でございました」と言うとき、火もなく、誰とも口をきかなかったという意味だと。
絃羽は怒らない。恨まない。自分が何を奪われたのかも知らない。
だから、代わりに怒るのは殿下のほうだった。
「お前が怒らないなら、俺が怒る。お前が怒らない分まで、全部な」
柏木家の帳面に、毎年の秋、欠かさず記された『蔵 炭』の一行。
炭が蔵へ届いた冬は、指で数えるほどしかない。
その金は、どこへ消えたのか。
そして、自分のためには決して怒らない娘が、ただ一度だけ怒ったのは──?
誰にも触れられなかった男と誰にも見つけられなかった娘が、
手を取り合うまでの大正浪漫・和風溺愛ファンタジー。
- あらすじ
- 七つの年に〈解け〉と判じられ、十年、家に忘れられた娘・柏木絃羽。
触れれば人を壊す宮家の嫡男・氷室篝に、ある日突然引き取られる。
けれど絃羽は、自分を不幸だと思ったことがない。
──だから、代わりに怒るのは殿下のほうだった。
目次
-
- 第1話「静かな冬でございました」
- 第2話「どなたか、お亡くなりになったのでしょうか?」
- 第3話「次女でございます」
- 第4話「殿下。筋肉は、裏切りません」
- 第5話「たまに……遠くから見ていました」
- 第6話「筋肉でございますよっ、殿下」
- 第7話「日当たりの話をしているのではない」
- 第8話「持病のようなものでございまして」
- 第9話「四股も、いかがです? まずは百から」
- 第10話「筋肉でございますね!」
- 第11話「殿下のお部屋より、ずっと」
- 第12話「片付きましたら、蔵へお戻しいただけるのでございますね」
- 第13話「……わたくしも、慣れておりました」
- 第14話「お気持ちだけ、頂戴いたします」
- 第15話「頼まれて呼ぶのではない。私が呼ぶだけだ」
- 第16話「呼んだだけだ」
- 第17話「慣れるというのは、よいことではございませんね」
- 第18話「少し、息が浅うございます」
- 第19話「腹筋が、どうにも邪魔をしているようでして」
- 第20話「お優しくていらっしゃいますのね」
- 第21話「ひとつ、合っておりません」
- 第22話「氷室が、預かる」
- 第23話「まず、足腰でございますね!」
- 第24話「結ばれ、ほどけ候」
- 第25話「琴は、絃がなければ」
- 第26話「ひとつだけ」
この作品をシェア
この作品を見ている人にオススメ
読み込み中…