もしも、巡る季節が止まってくれたら

ヒューマンドラマ

もしも、巡る季節が止まってくれたら
作品番号
1746293
最終更新
2025/08/24
総文字数
123,085
ページ数
70ページ
ステータス
完結
いいね数
3
「将来は何になりたいの?」
「好きな人、できた?」
「本当は、どうしたいの?」

 その問いかけはいつも柔らかくて。優しくて。
 だからこそ、私は答えられなかった。

 その気持ちを言葉に乗せたら、みんなが困るから。
 その気持ちのまま行動したら、みんなが困るから。
 その気持ちに気付いてしまう、自分が怖いから。

 「求められている私」になってしまえば、全てが丸く収まる。だから私は自分の心をペットボトルだと思って、ギュッとフタをした。
 揺すっても、振っても、開けない限りは溢れない心の栓。
 もし炭酸ジュースのようにシュワシュワと音を鳴らして感情が立ち上がっても、開けなければ大丈夫。そっとしておけば、やがて消えていき決して溢れることなんてない。
 感情なんて、初めからなかったみたいに。

 そうやって生きれば、楽だった。
 悩みも、葛藤もないふりをして。ただ巡る季節に身を委ねて、時の流れに乗ればいい。
 桜が美しくて咲いて、新たな命の息吹を感じても。
 夏の太陽が眩しくて、海がキラキラと輝いていても。
 小さくなっていく入道雲に切なさが過ぎっても。
 手の平で消えていく雪が、私の人生と重なっても。

 心は少しも揺れないふりをして、風に背中を押されながら歩く。

 ──感情なんていらない。だって、必要ないのだから。
あらすじ
渡辺未咲は高校三年生、父と双子の姉との三人暮らし。姉は重度知的障害を抱え、知能は三歳程度。物心着く頃から姉中心の生活に身を置き、母を亡くしてからは家事と姉の介助を担う立場。
高校卒業後はバイトと姉の世話をすると決め、教師より自分の人生を生きるようにと助言を受けるも考えを改めることはない。
幼少期より抑えてきた感情、求められている役割、諦めた自分の人生。
それを変えてくれたのは無愛想な同級生だった。

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