「将来は何になりたいの?」
「好きな人、できた?」
「本当は、どうしたいの?」

 その問いかけはいつも柔らかくて。優しくて。
 だからこそ、私は答えられなかった。

 その気持ちを言葉に乗せたら、みんなが困るから。
 その気持ちのまま行動したら、みんなが困るから。
 その気持ちに気付いてしまう、自分が怖いから。

 「求められている私」になってしまえば、全てが丸く収まる。だから私は自分の心をペットボトルだと思って、ギュッとフタをした。
 揺すっても、振っても、開けない限りは溢れない心の栓。
 もし炭酸ジュースのようにシュワシュワと音を鳴らして感情が立ち上がっても、開けなければ大丈夫。そっとしておけば、やがて消えていき決して溢れることなんてない。
 感情なんて、初めからなかったみたいに。

 そうやって生きれば、楽だった。
 悩みも、葛藤もないふりをして。ただ巡る季節に身を委ねて、時の流れに乗ればいい。
 桜が美しくて咲いて、新たな命の息吹を感じても。
 夏の太陽が眩しくて、海がキラキラと輝いていても。
 小さくなっていく入道雲に切なさが過ぎっても。
 手の平で消えていく雪が、私の人生と重なっても。

 心は少しも揺れないふりをして、風に背中を押されながら歩く。

 ──感情なんていらない。だって、必要ないのだから。