凶星のハイカラ乙女 ~明治ハレー彗星奇譚~

 すると、成田曹長が手帳をめくりながら、
「さらに厄介なのは、蛇神をお祀りしている神社があるのですが……。ああ、蛇好神社といいましてね、代々神主を務めているのが泉家でして……」
 と説明した。

「泉家……。そいつは厄介だな」

 幻十郎には、こちらの方が馴染みがあった。
 皇族にも連なる由緒正しき一族で、西国の各地に「家」を構えている名門だ。まさか農村にまで根付いているとは思わなかったが。

「現在の神主は葉蔵という男で、過去に先帝に謁見(えっけん)したこともあります。ただ、既に高齢ですから、実際は三男の久葉が取り仕切っているようです」
「三男……?」
「ええ。長男と次男は十年ほど前に出奔(しゅっぽん)したという話です」
「理由はなんだ?」

 幻十郎の問いに、成田曹長は「そこまでは……」と苦笑いを浮かべる。
 長男と次男がそろって出奔したのが引っかかるが、とりあえず成田曹長に話の続きをうながした。

「……それで、次期当主だという久葉は物腰は柔らかいのですが、これまた非協力的でしたね。しかしながら……村にいる間、妖刀(ようとう)の反応はなかったわけですが……」

 成田曹長と飯島軍曹が腰に下げているのは、ただの軍刀ではない。
 帝の命により、名のある陰陽師によって呪力をこめられた刀である。悪しきあやかしを探知し、切り裂き、祓うことのできる唯一の刀――。
 本隊の全隊員に支給されるが、幻十郎たち別働隊は持つことを許されていない。もっとも、能登は一度は手にしていた刀だが。

「反応がありましたら、禁足地だろうが問答無用で踏み込みましたものを……」

 妖刀の鞘(さや)を指でなぞりながら、成田曹長は悔しげに言った。

「悪しきあやかしがいないとして、村人たちが自発的に生贄を捧げているとしたら……一番性質(たち)が悪いな。そうでしょう? 八神中尉」

 忌々しそうに言った能登に、幻十郎は「ああ」と応じた。

 帝都から派遣されている残りの二名――永井軍曹と榎本軍曹は、蛇ノ目村の東隣の桜町にある、陸軍西国方面第十三警備隊の屯所(とんしょ)で待機しているらしい。
 面が割れている成田曹長と飯島軍曹は、しばらく旧都に留めておいたほうがいい。

 しばし思案したあと、幻十郎は口を開いた。

「おまえたちはここで待機してくれ。準備が整い次第、私と能登で桜町に入り、永井たちに接触する」