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自分の色を解放して、色々な色を手にして、それらの色を足して無限の色を作っていく、これが恋で、これを教えてくれたのはチャラくて掴みどころのない"桐谷遥"だった。
恋は儚くて、恋人という関係は一番脆くて、いつか無くなって、別れて、離れてしまうもので、それでも相手がほしくて、誰にも取られたくなくて、一緒にいたくて、自分が相手の色に染ってしまうほどの愛おしさが文字の羅列から伝わってきて、胸が切なく鳴って。だけど、様々な色を持って、たまにメチャクチャな絵を描いて、ズル休みをして、わらって、泣いて、怒って、唇から伝わる想いを油絵のように重ねて、色味を足して、ふたりだけの色を作って過ごしていく姿が優しく映りました。
青の濃淡のグラデーション、オレンジと白が飛沫、鮮やかな景色が脳裏に浮かんで、恋の瑞々しさ、愛おしさを教えてくれる優しい物語でした。
あまりにも強くて、深くて、色鮮やかな"好き"だった。
生まれて初めての、どうにもならない"好き"だった。
一番大切な親友と同じ人に惹かれてしまったヒロインの苦い気持ち、罪悪感、それでも諦めきれないほどの脆く強い恋心が鮮明に描かれていて、胸を掴まれたけれど、読後は優しい世界と爽快感に包まれました。
『絵を描く、ということは、自分の心に深く刺さった美しいものを、それを見たときに湧き上がった感情を、誰かに伝えるために形にするということだと思う』
「好きなものを描いたの」
「これって、俺だよな?」
人をすきになる、それは、苦しくて、痛くて、温かくて、何枚もの絵を描いていくように、相手への気持ちや思い出を大切に積み重ねていくということ、明日はもっとすきになって、すきが重なっていくということ、だと、
胸が張り裂けそうなほど痛かったけれど、人をすきになるということを教えてくれる物語でした。
生きていく上で抱いてしまう感情を、醜い感情を受け入れることは難しいことで、一度知ってしまった暗闇、感情は忘れることなく、在り続けるのだと思います。だけど、重みを背負うために、真っ暗でひとりぼっちの海で生まれて、様々な葛藤を抱えて生きていて、その中で優しい世界と世界の温もり、最初で最後の恋を知っていく"彼"、彼、彼女から伝わってきたことは感情の愛おしさでした。
「心をいじめちゃダメだよ、弱い自分を、もっと大切にしてあげてほしい。」
葛藤だらけの自分、感情を「仕方ないな」って受け入れること、それは強がりではなく強さなのだと、これからも抱いた感情と共に生きていくのだと、彼らが紡いだ日々の中で知って、ページを捲るほどに苦しくて、痛くて、堪えきれないほどの涙が溢れてしまったけれど、ページを捲れば捲るほどに愛おしく、痛さも全部全部抱きしめたくなって、最後には光とちいさな勇気が灯りました。
傷だらけのヒロインを包むヒーローのぶっきらぼうな言葉の裏に隠された温もりの言葉が琴線に触れてきて、自分の明日に大切な人がいるということ、その人がいるだけで世界がキラキラするということ、誰かを想い想われるということ、それは本当に奇跡だと、ふたりの恋物語が教えてくれました。
「サユ、下ばっかり向くなよ」
「お前のことずっと見てるから」
「だからもう、自分がひとりだなんて思うな」
「ちゃんと生きてサユ。俺のぶんまで生きて。それで、いつかまた一緒にバイクに乗って海を見に行こう」
「約束だ」
「俺がいなくてもサユは生きるよ。俺が好きになったのは、そういう女だ」
苦しい日々の中で抱きしめ合い、心を通わせたふたりの結末は、バットエンドなのに、私の中ではハッピーエンドで、独特な世界観、切なくも温かい物語の余韻に浸り、かもしれない"でいいから、私もまた明日から一生懸命生きていきたいと思いました。
「俺がいるから」
「百合、もう泣くな」
戦争中の世界、私は知らない世界、見たことのない世界だけど、リアルな描写に引き込まれて、百合目線で紡がれて、現代を生きる私の気持ちを代弁してくれる物語でした。
「愛する人たちを守るために、俺は死にに征くよ」
「生き恥ってなに?生きたいと思うのは、恥ずかしいことなんかじゃない!」
片道分の燃料と爆弾だけを積んで、死に征く覚悟をした特攻隊員の彰と真っ直ぐな百合との物語が心に突き刺さりました。
百合と彰のように、愛する人のそばにはいられない、愛する人と永遠に別れなければいけない時代、罪のない人の命が不本意に奪われる時代は二度ときてほしくない、と強く思います。
ここまで感情移入させられて、何度も読み返した物語はないです。ふたりの別れの苦しさ、温かさ、優しさを感じられる作品、この時代に生まれた人に読んでほしい作品、そしてずっと大切にした作品です。
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