後宮ファンタジー
完
mekoneko/著

- 作品番号
- 1795162
- 最終更新
- 2026/10/28
- 総文字数
- 26,171
- ページ数
- 7ページ
- ステータス
- 完結
- いいね数
- 0
人生でいちばん割のいい仕事は、御まる洗いだった。
声は出す。涙は出さない。それが泣き女の露の流儀だ。死んだ人に素手で触れると、その人の最後の想いが流れこんでしまうから、いつも袖ごしにしか触れない。
春の後宮で、泣かない陰陽師・昴とともに梅壺の更衣の最期を届けてから、季節がふたつ。都の泣き女衆の前に、上臈の女房・大弐の典侍があらわれる。
「内裏では、誰も死なないのですから」
月に米三石。露の新しい務めは、昼は樋洗として後宮の御まるを洗い、夜は喪屋で「死んでいない者たち」に付き添うこと。内裏で死んだ者は、帳面の上で里へ下がる。この後宮で死ぬことを許された者は、ひとりもいない。
喪屋に眠っていたのは、里へ下がったはずの樋洗の娘・いと。そして夜明けごとに、誰もいない洗い場で七つの樋箱が洗い上げられていた。
「姉さんは、すぐ戻ってくるんだから」
姉の帰りを信じて泣こうとしない妹・まつ。四晩続けて樋箱が消えたと嘆く、唐菓子好きの更衣・千種。井戸端に流れる、ひとつ、ふたつと数える歌。
死者が見える昴と、幽霊がまるで見えずに塩ばかり撒く滝口の武士・猛とともに、露は丑の刻の洗い場に身をひそめる。
露を呼ぶのはやめてほしいと、昴は典侍に願い出ていたらしい。白玉のような顔は、相変わらず何も教えてくれない。
典侍の口からこぼれた、母のこと。
――あなたの母君も、かつて同じお務めをしておられました。
叔母の時雨は、ただくり返す。向こうで、自分の涙だけは流すんじゃないよ。
そして夜ごと南の清涼殿へ通う猫は、なぜか上等な香木の匂いをまとって帰ってくる。
泣かない妹と、眠らない姉。夜明け前の数え歌が、後宮の嘘をひとつだけ本当にする。
腹ペコ泣き女と泣かない陰陽師が拾いあげる、ふたつめの「最後の想い」。
※『袖の露 ―泣かない陰陽師と、腹ペコ泣き女―』の第二部です。この話からでもお読みいただけます。
※平安時代をモチーフにした、架空の世界の物語です。
声は出す。涙は出さない。それが泣き女の露の流儀だ。死んだ人に素手で触れると、その人の最後の想いが流れこんでしまうから、いつも袖ごしにしか触れない。
春の後宮で、泣かない陰陽師・昴とともに梅壺の更衣の最期を届けてから、季節がふたつ。都の泣き女衆の前に、上臈の女房・大弐の典侍があらわれる。
「内裏では、誰も死なないのですから」
月に米三石。露の新しい務めは、昼は樋洗として後宮の御まるを洗い、夜は喪屋で「死んでいない者たち」に付き添うこと。内裏で死んだ者は、帳面の上で里へ下がる。この後宮で死ぬことを許された者は、ひとりもいない。
喪屋に眠っていたのは、里へ下がったはずの樋洗の娘・いと。そして夜明けごとに、誰もいない洗い場で七つの樋箱が洗い上げられていた。
「姉さんは、すぐ戻ってくるんだから」
姉の帰りを信じて泣こうとしない妹・まつ。四晩続けて樋箱が消えたと嘆く、唐菓子好きの更衣・千種。井戸端に流れる、ひとつ、ふたつと数える歌。
死者が見える昴と、幽霊がまるで見えずに塩ばかり撒く滝口の武士・猛とともに、露は丑の刻の洗い場に身をひそめる。
露を呼ぶのはやめてほしいと、昴は典侍に願い出ていたらしい。白玉のような顔は、相変わらず何も教えてくれない。
典侍の口からこぼれた、母のこと。
――あなたの母君も、かつて同じお務めをしておられました。
叔母の時雨は、ただくり返す。向こうで、自分の涙だけは流すんじゃないよ。
そして夜ごと南の清涼殿へ通う猫は、なぜか上等な香木の匂いをまとって帰ってくる。
泣かない妹と、眠らない姉。夜明け前の数え歌が、後宮の嘘をひとつだけ本当にする。
腹ペコ泣き女と泣かない陰陽師が拾いあげる、ふたつめの「最後の想い」。
※『袖の露 ―泣かない陰陽師と、腹ペコ泣き女―』の第二部です。この話からでもお読みいただけます。
※平安時代をモチーフにした、架空の世界の物語です。
- あらすじ
- 月に米三石で後宮の樋洗に雇われた泣き女の露。昼は御まるを洗い、夜は喪屋で「死んでいない者たち」に付き添う。夜明けごとに洗い上げられる七つの樋箱、姉の帰りを信じて泣こうとしない妹・まつ、井戸端に流れる数え歌。死者が見える陰陽師・昴と、幽霊の見えない滝口・猛とともに、露は丑の刻の洗い場へ。誰も死なない後宮で、夜明け前の数え歌が、嘘をひとつだけ本当にする。
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