トラブルがあったものの無事に家に帰ってこれ、姉は背負っていたリュックを下ろしてお弁当と洗濯を約束の場所に出す。その後二人で一緒に私服に着替え、制服をハンガーに吊る。
次に宿題として出ている絵描きを始め、その横で私は学校からの連絡ノートに目を通し今日あった飛び出しについて書き込む。
「うん、よく書けたね」
私に見せてきたのは滑り台の絵。お世辞にも上手いとは言えないが、クレヨンで書いた水色の滑り台は色遣いもよく、色に対する認識はしっかり出来ている。
宿題に名前を書き片付けたら、終わり。テレビのリモコンを操作し夕方に放送している幼児用番組に合わせると、ニコニコ笑いながら体操を始める。
ようやく作業を始められる。
そう思い買い出しした物を詰め込んだエコバッグを広げると、中身はぐちゃぐちゃで卵が割れていた。
道路に飛び出した姉を追いかけた時、落とした残骸だ。
……今日は、卵スペシャルだな。
卵パック内で割れた卵を一つ一つ掬い、ボールに中身を入れていく。
「みーちゃん」
姉の無邪気な声に顔を上げると、手にしているのはピンクの折り紙だった。
「お花作ってー」
柱に掛けてある時計に目をやると、既に六時を過ぎている。今日は外での泣いてしまったし、時間が圧倒的に足りなかった。
「ごめんね、ご飯作らないと」
「やってよ! やって!」
眉を下げ肩を震わす、その姿。
あ、ヤバいかも。
「分かった、一個だけだよ?」
「うん!」
早く折ってしまいたいけど「お花を作って」と言うのは、作り方を教えてという意味だ。だから姉のペースに合わせて、一つずつ教えていく。
「ありがとう!」
「うん、もう一つ作って覚えてね」
そう言い、私は足早に台所に戻る。
「覚えてね」。簡単に言ったけど、それは姉にとって難しいこと。姉は平仮名は書けるけどそれを繋げて文字にするのは難しく、折り方の図を見ても理解出来ない。何度教えても忘れてしまうことがあり、日常生活の基本を忘れないようにするだけで精一杯らしい。それが重度知的障害を抱えるということだと、姉の主治医より説明を受けた。
だけど覚える訓練をした方が良いと、根気強く教えていく。例え、身にならなくても。
七時前。いつもより三十分遅れて夕飯となる。
エプロンを付けスプーンとフォークを使用して食べるがご飯やおかずをポロポロと落とし、あまり噛まずに飲み込む為にその都度声をかける。
七時半。食器の片付けとお風呂の準備をし、八時に一緒に入る。それぐらい一人で入らせてあげたら良いのにとか思われそうだけど、洗髪は上手く出来ず体の洗い残しもある。だからこそ補助を行い、何より事故が起こらないようにと配慮しなければならない。
だからこそ過保護だと言われようとも、私は必ず一緒に入るようにしていた。
お風呂を上がれば夜用のオムツを履き、ちゃんと入っていないシャツをズボンにしっかり入れる。姉はトイレは行けるけど夜は失敗もあり、傷付くので夜はオムツと決めている。
そこはやっぱり十七歳で、トイレの失敗が一番堪えるらしい。
背中までのストレートヘアを乾かし、布団を引けばもう九時半だ。
「おやすみ」
私は姉の横で添い寝する。一人では怖く、寝られないらしい。何度挑戦してもダメだったようで、「うわあああ」と叫びパニックになってしまう。
次に宿題として出ている絵描きを始め、その横で私は学校からの連絡ノートに目を通し今日あった飛び出しについて書き込む。
「うん、よく書けたね」
私に見せてきたのは滑り台の絵。お世辞にも上手いとは言えないが、クレヨンで書いた水色の滑り台は色遣いもよく、色に対する認識はしっかり出来ている。
宿題に名前を書き片付けたら、終わり。テレビのリモコンを操作し夕方に放送している幼児用番組に合わせると、ニコニコ笑いながら体操を始める。
ようやく作業を始められる。
そう思い買い出しした物を詰め込んだエコバッグを広げると、中身はぐちゃぐちゃで卵が割れていた。
道路に飛び出した姉を追いかけた時、落とした残骸だ。
……今日は、卵スペシャルだな。
卵パック内で割れた卵を一つ一つ掬い、ボールに中身を入れていく。
「みーちゃん」
姉の無邪気な声に顔を上げると、手にしているのはピンクの折り紙だった。
「お花作ってー」
柱に掛けてある時計に目をやると、既に六時を過ぎている。今日は外での泣いてしまったし、時間が圧倒的に足りなかった。
「ごめんね、ご飯作らないと」
「やってよ! やって!」
眉を下げ肩を震わす、その姿。
あ、ヤバいかも。
「分かった、一個だけだよ?」
「うん!」
早く折ってしまいたいけど「お花を作って」と言うのは、作り方を教えてという意味だ。だから姉のペースに合わせて、一つずつ教えていく。
「ありがとう!」
「うん、もう一つ作って覚えてね」
そう言い、私は足早に台所に戻る。
「覚えてね」。簡単に言ったけど、それは姉にとって難しいこと。姉は平仮名は書けるけどそれを繋げて文字にするのは難しく、折り方の図を見ても理解出来ない。何度教えても忘れてしまうことがあり、日常生活の基本を忘れないようにするだけで精一杯らしい。それが重度知的障害を抱えるということだと、姉の主治医より説明を受けた。
だけど覚える訓練をした方が良いと、根気強く教えていく。例え、身にならなくても。
七時前。いつもより三十分遅れて夕飯となる。
エプロンを付けスプーンとフォークを使用して食べるがご飯やおかずをポロポロと落とし、あまり噛まずに飲み込む為にその都度声をかける。
七時半。食器の片付けとお風呂の準備をし、八時に一緒に入る。それぐらい一人で入らせてあげたら良いのにとか思われそうだけど、洗髪は上手く出来ず体の洗い残しもある。だからこそ補助を行い、何より事故が起こらないようにと配慮しなければならない。
だからこそ過保護だと言われようとも、私は必ず一緒に入るようにしていた。
お風呂を上がれば夜用のオムツを履き、ちゃんと入っていないシャツをズボンにしっかり入れる。姉はトイレは行けるけど夜は失敗もあり、傷付くので夜はオムツと決めている。
そこはやっぱり十七歳で、トイレの失敗が一番堪えるらしい。
背中までのストレートヘアを乾かし、布団を引けばもう九時半だ。
「おやすみ」
私は姉の横で添い寝する。一人では怖く、寝られないらしい。何度挑戦してもダメだったようで、「うわあああ」と叫びパニックになってしまう。



