「これ、見て欲しいの」
 アルバムノートと、一冊の冊子を父に渡す。

「未咲……」
 その冊子を捲った父は、ゆっくりと私の顔を見上げてくる。
 
「私ね、保育士になりたいの。だから進学させてください」
 
 アルバムの後ろに隠していたのは進路指導ファイルだけじゃなく、保育士や幼稚園教諭の資格が取得出来る短大のパンフレットも共に隠していた。これだけは捨てられず、まだこれを残していた。

「私ね、本当はピンクが好きなの。卒園生に送るアルバムは赤とピンクがあったけど、先生はピンクを選んでくれた。持ち物は赤ばっかなのに、本当はピンク好きだって知ってくれていた。嬉しかったんだよね、本当の私を知ってくれている人が居てくれたんだって」

 人は優しくされたら、誰かにも優しく出来る。
 誰かに認めてもらえたら、誰かを認められる。
 私がありのままの姉を認めてお世話が出来たのは、京子先生のおかげだと思っている。

 世間で私みたいな人は「ヤングケアラー」と呼ばれていると知っていたけど、姉の世話全て嫌だったわけじゃない。
 みーちゃんと抱きついて来てくれたのは嬉しかったし、ゆっくりだけど一つ一つの成長を喜び、相手を思いやる気持ちの芽生えはこちらの心まで温かなものにしてくれた。
 鍵を開けて出て行ったこと。当時は焦ったし戸惑ったけど、落ち着いた頃に思い直して少しだけ嬉しかった。姉はそこまで分かるようになったんだなって。
 海に入ってしまった五十嵐くんを浜辺まで連れて行ってくれた。
 スマホのパスコード、いつの間にか覚えて解除出来るようになっていて京子先生に私を探してと電話してくれた。

 五十嵐くんと私は、いつの間にか姉によって救われていた。

 姉の成長は遅く、出来ることも限られている。だからこそ成長は嬉しいし、やりがいもあった。
 妹として求められるのは、本心で嬉しかった。
 それも事実。

「……そうか。お父さん、そんなことも知らなかったんだな……」
 アルバムノートを眺めていた父は、写真をただ見つめていた。