「お姉ちゃんは不安の中で生きていて、癇癪は辛い。だから頑張って作った砂山を壊されても、お母さんお父さんに見てもらおうと思っていた作品を壊されても、お母さんの形見のネックレスを壊されても、怒ることなんて許されなかった。そんなこと誰かに相談なんて出来なかった。だって姉が泣いて暴れるなんて、そんなこと言えなかった。だから自分が我慢して生きていくしかなかった。でも本当はソフトテニス部に入りたかったし、休みの日は亜美と渚と遊びに行きたかったし、カフェやファーストフードでおしゃべりして、勉強難しいねとか、学校でのことを話したかった。修学旅行に行きたかった。お姉ちゃんとは普通の姉妹で居たかったし、一緒に遊んだり、喧嘩したり、相談したり、互いに支えられる関係でいたかった。平等の関係でいたかった」
 私の気持ちは炭酸が吹き出すようにどんどんと溢れてきて、言っていることも支離滅裂のぐちゃぐちゃで、ただ思うまま気持ちを放っていた。

「……でも仕方がないよね。求められている私にならないと、周りが困るから。家が回っていかないから。生活出来ないから。だから私は心に蓋をし、いつの間にか本当の私を窒息させてしまっていた。お母さんが死んでしまって悲しかったのは私もだったのに、私は泣くことすら出来なかった。私がしっかりして、家族を支えないといけない。そんな私を、周りが求めたから。……私は、別に良い子ぶってるんじゃないよ。そうならないといけなかっただけ。子供で居られなかっただけ。本当はわがまま言いたかった。お母さんとお父さんに甘えたかった。ずっと、ずっと淋しかっんだから」
 どうしようもない感情が込み上げ、私は声を上げて泣き喚く。
 そんな私に寄り添ってくれ、そっと包み込んでくれる。
 それは頼りになるぐらいに大きくて、安心できて、優しくて、まるで全てを受け止めてくれるような温かさだった。

「過ぎた時間は取り戻せないし、巡る季節も止まらない。だけど、これからはあるだろ? 俺達は俺の兄と違って、生きているんだから。これからの人生が続いていくんだから。だから、真正面から自分の人生について向き合って考えろ。今まで考えられなかった分も」
「……うん」

 時は日暮れ時で、茜色の夕日が海へと吸い込まれていく。
 私は子供のように、ただ声を上げて泣いた。