「しかし、ダッセーよな。警察官がお前の姉さんを保護して話が終わると軽く考えていたら、俺にまで何をしていたか聞いてくんの。学校が終わってから何していたのか。姉さんが海に入っていた状況。どうやって助けたかとか。細々と。まあ、普通そうだよな。俺が姉さんを誑かして無理矢理浜辺に連れてきた疑いもあっただろうし、最悪海に入れた恐れもある。完全に見通しが甘かったよ」
小さく息を吐く姿は、警察の方から事情を聞かれて遠くの海を眺めていたものと同じで、自ら海に入っていたなんて絶対に知られたくないからこその表情だったんだ。
『お姉さんはどれぐらい相手に合わせて行動が取れますか?』
あの質問は、そうゆう意味だったんだ。
相手に合わせることは出来ない。無理矢理に合わさせようとすると混乱からパニックを起こす。
ありのままを説明したから疑いはなくなったけど、保護してくれた五十嵐くんを苦しめていたんだ。
「警察に事情話せず黙り込んでいたら、お前の姉さんが海に入ろうとしてそれを止めた。すると俺を見て笑ったんだよな。それがまるで、『自分のせいにして良いよ』、そう言ってるような気がして。だから、警察に話した。俺がふざけて海に入ってたら、あの子が追いかけて来てくれて叱ってくれた。だから、辞めたんだって。警察官に海に入った理由をしつこく聞かれたがふざけていただけだと言い続けたら、もう絶対にするなと釘を刺されてな。……悪い。嗾けたようなもんだった。俺が海に入っていたから、我慢できなかったんだろう」
「五十嵐くんのことが心配で追いかけたんだよ」
私は声を張り上げて、そう返した。
おそらく姉は、入水の意味なんて分かっていないだろう。
だけど海に入っている背中があまりにも淋しげで、後を追い顔を覗き込んでも自分に全く気付かないぐらいに遠くを見つめていて、だから海水をかけて笑わせようとしたのだろう。
姉は、人の痛みが分かる優しい人だから。
「そっか、そうだな。あの時、お前の姉さんが言ってくれたんだよ。海に入ったらダメだよ。海で溺れて死んでしまった人も居るからって。お前が、姉さんに言い聞かせている言葉をな」
……あ。
「ごめんなさい……」
知らなかったとはいえ、海で家族を亡くした人の前でそんな言葉を発してしまっていた。
「謝らなくていいし。姉さんには強い言葉でハッキリ言わないといけないことぐらい分かってんし。俺が言いたいのは、姉さんは分かっている。それだけだから」
姉が海に入ろうとしていて、怒っていたあの時。海の危険は分かっているから怒るのは家から出て行ったことだけにして欲しい。そう五十嵐は頼んできた。
あれは、そうゆう意味だったんだ。
「まあ、姉さんに一人で出歩いて良いのかと聞いたら、どうしようと騒ぎ出したけどな。ダメだと分かってるのに、衝動的に行動を取ってしまう。それが障害なんだと知った。……姉さんな、いつもお前に迷惑かけてると言ってきたんだ」
「お姉ちゃんが?」
「ああ。だから、迷惑ではないけど妹を心配はさせんな。勝手に出てくるなと言った。そしたら俺には、淋しいなら自分が側にいるから、もう海に入ったらダメだと言い約束を提案された。お前の姉さんなら兄との思い出の場所を悲しい場所から、楽しい場所に戻してくれる。そう思ったから一緒に遊びに行ってくれないかと聞いたら、いいよと笑って返してくれた。だから、俺はもう海に入らねーよ。姉さんとの約束だからな」
「私を同行させてくれたのは?」
「お前、一年の頃からバカみてーにキリッとしててよ。高校生の中に大人が混ざっているような違和感ってやつ? クラスの奴らが言うには双子の姉か妹か知らねーけど世話してるみたいな。ああ、ここにも優し過ぎる人間がいるのかと溜息出てな。だから、お前のバカ真面目の顔を壊したかった。ただのバカにして、求められている役割から解放されて欲しかった。例え、一時でも。……まあ兄なら女子にもっと優しく関わって、気の利いたこと言うんだろけど俺だからな……」
また遠い目をした五十嵐くんは、海を見つめ目を閉じる。
きっと。お兄さんなら、どうしていたのだろうと考えているのだろう。
五十嵐くんは、何を言われても気にしていなかったんじゃなかった。気にしていたからこそ、ツンケンしていたんだ。
体育のマラソンが出来ないのは心臓に負担がかかるから、プールを休んでいるのは水が怖かったから。
私、本当に何も知らなかったんだな。二年以上、同じクラスだったのに。
小さく息を吐く姿は、警察の方から事情を聞かれて遠くの海を眺めていたものと同じで、自ら海に入っていたなんて絶対に知られたくないからこその表情だったんだ。
『お姉さんはどれぐらい相手に合わせて行動が取れますか?』
あの質問は、そうゆう意味だったんだ。
相手に合わせることは出来ない。無理矢理に合わさせようとすると混乱からパニックを起こす。
ありのままを説明したから疑いはなくなったけど、保護してくれた五十嵐くんを苦しめていたんだ。
「警察に事情話せず黙り込んでいたら、お前の姉さんが海に入ろうとしてそれを止めた。すると俺を見て笑ったんだよな。それがまるで、『自分のせいにして良いよ』、そう言ってるような気がして。だから、警察に話した。俺がふざけて海に入ってたら、あの子が追いかけて来てくれて叱ってくれた。だから、辞めたんだって。警察官に海に入った理由をしつこく聞かれたがふざけていただけだと言い続けたら、もう絶対にするなと釘を刺されてな。……悪い。嗾けたようなもんだった。俺が海に入っていたから、我慢できなかったんだろう」
「五十嵐くんのことが心配で追いかけたんだよ」
私は声を張り上げて、そう返した。
おそらく姉は、入水の意味なんて分かっていないだろう。
だけど海に入っている背中があまりにも淋しげで、後を追い顔を覗き込んでも自分に全く気付かないぐらいに遠くを見つめていて、だから海水をかけて笑わせようとしたのだろう。
姉は、人の痛みが分かる優しい人だから。
「そっか、そうだな。あの時、お前の姉さんが言ってくれたんだよ。海に入ったらダメだよ。海で溺れて死んでしまった人も居るからって。お前が、姉さんに言い聞かせている言葉をな」
……あ。
「ごめんなさい……」
知らなかったとはいえ、海で家族を亡くした人の前でそんな言葉を発してしまっていた。
「謝らなくていいし。姉さんには強い言葉でハッキリ言わないといけないことぐらい分かってんし。俺が言いたいのは、姉さんは分かっている。それだけだから」
姉が海に入ろうとしていて、怒っていたあの時。海の危険は分かっているから怒るのは家から出て行ったことだけにして欲しい。そう五十嵐は頼んできた。
あれは、そうゆう意味だったんだ。
「まあ、姉さんに一人で出歩いて良いのかと聞いたら、どうしようと騒ぎ出したけどな。ダメだと分かってるのに、衝動的に行動を取ってしまう。それが障害なんだと知った。……姉さんな、いつもお前に迷惑かけてると言ってきたんだ」
「お姉ちゃんが?」
「ああ。だから、迷惑ではないけど妹を心配はさせんな。勝手に出てくるなと言った。そしたら俺には、淋しいなら自分が側にいるから、もう海に入ったらダメだと言い約束を提案された。お前の姉さんなら兄との思い出の場所を悲しい場所から、楽しい場所に戻してくれる。そう思ったから一緒に遊びに行ってくれないかと聞いたら、いいよと笑って返してくれた。だから、俺はもう海に入らねーよ。姉さんとの約束だからな」
「私を同行させてくれたのは?」
「お前、一年の頃からバカみてーにキリッとしててよ。高校生の中に大人が混ざっているような違和感ってやつ? クラスの奴らが言うには双子の姉か妹か知らねーけど世話してるみたいな。ああ、ここにも優し過ぎる人間がいるのかと溜息出てな。だから、お前のバカ真面目の顔を壊したかった。ただのバカにして、求められている役割から解放されて欲しかった。例え、一時でも。……まあ兄なら女子にもっと優しく関わって、気の利いたこと言うんだろけど俺だからな……」
また遠い目をした五十嵐くんは、海を見つめ目を閉じる。
きっと。お兄さんなら、どうしていたのだろうと考えているのだろう。
五十嵐くんは、何を言われても気にしていなかったんじゃなかった。気にしていたからこそ、ツンケンしていたんだ。
体育のマラソンが出来ないのは心臓に負担がかかるから、プールを休んでいるのは水が怖かったから。
私、本当に何も知らなかったんだな。二年以上、同じクラスだったのに。



