十五分ぐらいが経った頃だろうか、顔を上げた五十嵐くんに私はパッと距離を取る。
そんな私に「悪い」とだけ呟いた五十嵐くんは、また遠くに輝く海を眺め話を続けていく。
「兄を亡くして、あの街に住むのが辛くなってな。だからこの町に引っ越してきた。また海町じゃねーかって感じなんだけどよ、兄の遺体はまだ見つかってないから。海は、俺達家族にとっての墓なんだよ。だから、離れることなんて出来ない。いつ遺体が見つかったと連絡が来るか、分からねーし。……ま、そんなことはないだろうがな」
事故から三年の年月が経っている。遺体が発見されるのは、難しいのかもしれない。
「この町に来たら、俺は水難事故で死んだ兄の弟ではなくなる。高校では知らねー奴らだけ。また一から人間関係築けばいいとか思っていたんだけどよ。どう人と関わって良いか、分からなくなってな。……こうゆう時、兄だったらどうするか? 兄ならなんて返すか? 常にそんな考えが付き纏って、いつしか人と関わるのを止め、またクラスで孤立した。そんな俺を根暗だと女子がヒソヒソ話してよ。何も知らねーくせにと思って、うっせーと悪態吐いたら完全にクラスで浮いた。田舎だから文理混合の一クラスしかねーし、三年間絶対に変わらねーから、終わったなって余計に苛々して。兄ならこうはならないと勝手にへこんで、親は何も言わねーけど兄の方が生きていれば……とか……」
途端に口篭ってしまう声はまた波により消されていき、そのあまりにも遠くを見る視線はお兄さんが亡くなった海へと続いている。
五十嵐くんが姉を助けてくれたあの日は、終業式の日だった。そしてあの水難事故が起きたのも終業式の日。だから……。
私は気付けば、力無くブランとなっていた五十嵐くんの手を強く握り締めていた。
もうそんなことしてほしくなくて、ただ力強く。
私の体が小さく震えても、その手を離さなかった。
そんな私に「悪い」とだけ呟いた五十嵐くんは、また遠くに輝く海を眺め話を続けていく。
「兄を亡くして、あの街に住むのが辛くなってな。だからこの町に引っ越してきた。また海町じゃねーかって感じなんだけどよ、兄の遺体はまだ見つかってないから。海は、俺達家族にとっての墓なんだよ。だから、離れることなんて出来ない。いつ遺体が見つかったと連絡が来るか、分からねーし。……ま、そんなことはないだろうがな」
事故から三年の年月が経っている。遺体が発見されるのは、難しいのかもしれない。
「この町に来たら、俺は水難事故で死んだ兄の弟ではなくなる。高校では知らねー奴らだけ。また一から人間関係築けばいいとか思っていたんだけどよ。どう人と関わって良いか、分からなくなってな。……こうゆう時、兄だったらどうするか? 兄ならなんて返すか? 常にそんな考えが付き纏って、いつしか人と関わるのを止め、またクラスで孤立した。そんな俺を根暗だと女子がヒソヒソ話してよ。何も知らねーくせにと思って、うっせーと悪態吐いたら完全にクラスで浮いた。田舎だから文理混合の一クラスしかねーし、三年間絶対に変わらねーから、終わったなって余計に苛々して。兄ならこうはならないと勝手にへこんで、親は何も言わねーけど兄の方が生きていれば……とか……」
途端に口篭ってしまう声はまた波により消されていき、そのあまりにも遠くを見る視線はお兄さんが亡くなった海へと続いている。
五十嵐くんが姉を助けてくれたあの日は、終業式の日だった。そしてあの水難事故が起きたのも終業式の日。だから……。
私は気付けば、力無くブランとなっていた五十嵐くんの手を強く握り締めていた。
もうそんなことしてほしくなくて、ただ力強く。
私の体が小さく震えても、その手を離さなかった。



