『連れて行って欲しい場所があるんだけど、良いかな?』
 毎日姉の体調を気遣って送ってきてくれた五十嵐くんに、初めてそう返したのは三日後。
 どこだ? と来た文面に、私はあの浜辺と返す。
 五十嵐くんと関わるキッカケになった、あの浜辺に。

「お姉ちゃん、五十嵐くんと出掛けよう」
「……うん」
 力無く俯く姉の髪をいつものようにポニーテールにし、ピンクの髪ゴムでギュッと括る。
 あれから微妙な関係が続いていて、姉からは無邪気さがすっかり抜けてしまった。
 姉は私の気持ちも言われた言葉の意味も分かってないけど、「酷い」「ズルい」などの単語は分かっていているから悪く言われたということは充分に認識している。
 だけど言われた意味は分かっておらず、それを理解出来ないのは自分に知能が足りないからだということも分かっていて、苦しませてしまった。
 元の関係に戻りたい。元の私に戻りたい。
 だから、今日で……。


 ピンポーン。
 早速鳴るチャイムに玄関ドアを開けると、そこにはブスッとした表情を浮かべているいつもの顔があった。

「大地、ジュースありがとう」
 姉にはいつもの無邪気さはなく、眉も口角も下がっていた。

「なんだ? 急にしおらしくなって。まだ具合悪いんじゃねーの?」
「塩らしい?」
「ああ、悪い。大人になったということかな?」
「……そんなことないよ」
 バツが悪そうな表情を見せた姉は私に目をやり、そっと逸らす。

「……ん、まあ行こうか?」
「うん」
 微妙な空気を感じ取ってくれたのかこれ以上は触れず、出掛けることになる。
 いつもの姉は五十嵐くんと手を繋ぎ笑っているが今日は明らかに肩を落とし、声をかけられてもすぐ会話を終わらせてしまう。
 後ろをトボトボと歩く私に五十嵐くんは視線を送ってくるが、私も逸らしてしまった。