『五分だけ玄関に出て来れないか?』
翌日の昼頃。届いたメッセージ。
「え?」
まさかと思い玄関に走ると、ガラス張りのドアより人影が映っている。
五十嵐くん。
私は衝動的にドアを開けようとするが、開かない。
あ、そっか。
内鍵の存在を思い出し、首に掛けて服の中に隠してある鍵を手に取る。逸る気持ちを抑えながら鍵穴に差し込み開けると、そこにはブスッとした表情をした五十嵐くんが立っていた。
「ん!」
「……え?」
差し出してきたのは、袋一杯に入ったジュース。
スポーツ飲料水、りんご、蜜柑、ミックスなど様々な味が五百ミリリットルのペットボトルに詰められていた。
「ありがとう」
「……具合悪いのは、姉さんの方か?」
「うん」
私は、また嘘を吐いた。
具合が悪いのではない。私が姉をそうさせたくせに。
先程からポンポンと出る偽りの言葉に、胃が反りくり返るような吐き気を覚える。
どうしよう。私がこんな浅ましい感情を持ち合わせていることを、五十嵐くんに知れたら。
「一人で大丈夫か?」
そんな私の本性を知らない瞳は、私を優しい眼差しで包んでくれる。
「うん。ありがとう」
「別に、たまたまだし。元気になったら連絡しろよ。お前も行きたいところとか、考えとけよ?」
「……うん」
「じゃあな」
本当に五分で帰って行った。
……たまたまって。こんな立地も悪く住宅地の外れにある場所に、何のたまたまで立ち寄るの?
これ、届けてくれたんだよね?
その瞬間に、また湧き立つ感情。
私の心にシュワシュワとしたものが注がれ、またいっぱいになってしまう。
五十嵐くんの優しさに触れるのが苦しい。
あなたは私の心を揺さぶってくる。
蓋を僅かにでも緩めると、プシューと噴き出し溢れてくるこの気持ち。
溢れた炭酸飲料と同じで、感情のまま溢れてしまった言葉は元には戻ってくれない。
だからしっかり閉めないといけないのに、それはゆるゆるで弱くなってしまった心の蓋。
どうしたら良い? どうしたらこの気持ちを落ち着かせられる? 溢れるものを抑えられる?
もらったジュースをぼんやりと眺めていると、そこにはミックスジュース。私は、これが……。
手を伸ばした途端に、ビクッとなる体。
……私は大切なことを忘れている。あれほどいつも気を付けていることを。
ゆっくり玄関ドアに体を向けると、私はあろうことか内鍵を掛け忘れていた。震える手で、ガチャンガチャンと二箇所を閉め、前回の騒動をキッカケに新たに付け足してもらった複雑な鍵で完全な施錠をする。
はぁ……。
その場でしゃがみ込み、首に掛けてある二つの鍵を手に取る。
「……ダメだね、これじゃあ。戻さないと……」
いつもの、「求められている私」に。
翌日の昼頃。届いたメッセージ。
「え?」
まさかと思い玄関に走ると、ガラス張りのドアより人影が映っている。
五十嵐くん。
私は衝動的にドアを開けようとするが、開かない。
あ、そっか。
内鍵の存在を思い出し、首に掛けて服の中に隠してある鍵を手に取る。逸る気持ちを抑えながら鍵穴に差し込み開けると、そこにはブスッとした表情をした五十嵐くんが立っていた。
「ん!」
「……え?」
差し出してきたのは、袋一杯に入ったジュース。
スポーツ飲料水、りんご、蜜柑、ミックスなど様々な味が五百ミリリットルのペットボトルに詰められていた。
「ありがとう」
「……具合悪いのは、姉さんの方か?」
「うん」
私は、また嘘を吐いた。
具合が悪いのではない。私が姉をそうさせたくせに。
先程からポンポンと出る偽りの言葉に、胃が反りくり返るような吐き気を覚える。
どうしよう。私がこんな浅ましい感情を持ち合わせていることを、五十嵐くんに知れたら。
「一人で大丈夫か?」
そんな私の本性を知らない瞳は、私を優しい眼差しで包んでくれる。
「うん。ありがとう」
「別に、たまたまだし。元気になったら連絡しろよ。お前も行きたいところとか、考えとけよ?」
「……うん」
「じゃあな」
本当に五分で帰って行った。
……たまたまって。こんな立地も悪く住宅地の外れにある場所に、何のたまたまで立ち寄るの?
これ、届けてくれたんだよね?
その瞬間に、また湧き立つ感情。
私の心にシュワシュワとしたものが注がれ、またいっぱいになってしまう。
五十嵐くんの優しさに触れるのが苦しい。
あなたは私の心を揺さぶってくる。
蓋を僅かにでも緩めると、プシューと噴き出し溢れてくるこの気持ち。
溢れた炭酸飲料と同じで、感情のまま溢れてしまった言葉は元には戻ってくれない。
だからしっかり閉めないといけないのに、それはゆるゆるで弱くなってしまった心の蓋。
どうしたら良い? どうしたらこの気持ちを落ち着かせられる? 溢れるものを抑えられる?
もらったジュースをぼんやりと眺めていると、そこにはミックスジュース。私は、これが……。
手を伸ばした途端に、ビクッとなる体。
……私は大切なことを忘れている。あれほどいつも気を付けていることを。
ゆっくり玄関ドアに体を向けると、私はあろうことか内鍵を掛け忘れていた。震える手で、ガチャンガチャンと二箇所を閉め、前回の騒動をキッカケに新たに付け足してもらった複雑な鍵で完全な施錠をする。
はぁ……。
その場でしゃがみ込み、首に掛けてある二つの鍵を手に取る。
「……ダメだね、これじゃあ。戻さないと……」
いつもの、「求められている私」に。



