海の家でお昼を食べ、太陽が高く登る十二時半過ぎ。
 日差しは強く熱中症の恐れがある為に、外遊びを控えるようにと海の家より通達がきた。

「この近くにアーケード……。つまり店があるから、立ち寄らねーか?」

「お店、行ってみたい!」
「妹は?」
「うん、行ってみたい」
 普段買い物なんてスーパーにしか行ったことなく、アーケードなんて場所憧れしかなかった。

 海岸より上部にあるアーケード通りに行く為、坂道を登り踏切を越えて行く。十分ほど歩いた先にあったのは、ガラスのマーチが屋根になっている商店街だった。

「商品は触っちゃダメだよ?」
「うん、見るだけ」
 アーケードを順番に見回っていくと、夏だからか風車や風鈴、豚の蚊取り線香など季節に合った商品が多く陳列されている。
 リンリンと心穏やかにする風鈴、風に乗りキラキラと回る紙風車、可愛く魅力的な小物。見ているだけで心が踊らされる、そんな空間だった。

「これやりたい! やって良い?」
 姉の声で意識が戻り指した先に目をやると、それはビーズのネックレスを作る催しについて書かれたミニ黒板だった。
 そこに引っ掛けられてあるビーズのブレスレットはキラキラと輝いており綺麗だった。
 一つ百円。かなりお手頃な価格だった。

「そうだね。五十嵐くん、少し良いかな?」
「ああ、いいんじゃね?」
「良かったらブレスレット……」
「いらねーから、早く行くぞ」
 先回りの返答に驚きつつ木製のお店ドアをガラガラと開けてくれると、店内はキラキラとしたネックレスやブレスレットが多く飾られていて、姉と思わず見回してしまう。

「すみません。作るのに時間がかかると思いますが、させてもらえませんか?」
「いいよ、誰もいないし」
 そう返事を返してくれるのは、お母さん世代の女性。
「ありがとうございます。お願いします」
 リュックより出した財布より、硬貨を一枚手渡す。

「一つで良いの?」
「はい、お願いします」
「……そう? じゃあ、この中から選んで」
 差し出されたのは五センチサイズの小さな仕切りに入っている、ピンク色、赤色、水色、オレンジ色などの様々な色があるボールビーズ。
 それらは店のオレンジ色の吊り下げ照明により照らされてキラキラと輝き、どのような配色にするか悩むところ。
 けど姉は迷うことなくピンクを選ぶ。それぐらいにこの色が大好きみたいだ。
 ブレスレットの作り方は、ゴムテグスと呼ばれる糸にボールビーズにある穴に入れていくという手軽で簡単なものだった。
 だけど手先が不器用な姉には難しく、一つ一つ真剣な表情で向き合っていく。
 出来ないことにより気持ちが崩れないか、悔しくて泣かないか。感情面に配慮しながら、側に寄り添う。

「出来た」
 一人で完成させた姉はお店の人にそれを渡し、輪っかにしてもらう。
「ありがとうございました」
 お店の人に挨拶をし店を出ると天井のアーチより差す太陽の光。それによりブレスレットはキラキラと輝きを放っていた。

「五十嵐くんお待たせ、ごめんね遅くなって」
「大地、どう?」
 左手首にはめてもらったブレスレットをニコニコと見せる笑顔は、より一層輝いている。

「そうゆうのよく分かんねーけど、良いんじゃねーの? 明日香はピンク好きなのか?」
「うん!」
「お姉ちゃんはピンクだもんね?」
「みーちゃんは赤!」
 顔を合わせて笑い合う私達に、五十嵐くんは一言。

「……妹は赤。好きなのか?」
「え?」
 その問いに私の頭は思考停止してしまう。
 好き?
 姉の背負うリュックにはピンクのキーホルダーが付いていて、私のリュックには赤のが付いてある。
 だから。
「うん」
 そう答えた。

「つーか、お前のは?」
「私?」
 また脳内が思考停止してしまう。
 想定外のことを聞かれると、止まってしまう軟弱な構造みたい。

「お前もやったら? 明日香、見てるし」
「えーと」
「あ、あれ何?」
 姉が指差す先は、また別の物。
「気になるの? 見に行こうか? ありがとう。私は良いよ」
「……そうか?」
 私を見つめて眉を顰める五十嵐くんが気になったけど、その後もう一周した頃には日は傾いていた。

 徒歩で浜辺に戻る頃には暑さも軽減しまた遊んでいる人もチラホラ居て、次は貝殻拾いを始める。
 太陽に照らされた貝殻もまたキラキラと輝き、宝探しをしている気持ちが湧いてきた。