『明日の十四時、家に迎えに行く。外だから帽子被って暑さ対策してこい。』
 そんな文面で始まった、三人で出掛ける約束。
 どこに行くのか、何をするのかも教えてくれず、私は一人ソワソワしていた。

 リュックを背負って靴を履き、内鍵をガチャと開けるとカッと照り付ける太陽。
 姉の手をギュッと握り外鍵の施錠をし、屋根がある敷地内で五十嵐くんを待つ。
 しかしそれらしい人が現れることはなく、付近には一台の見慣れない白の普通自動車。カチカチとファザートランプが光らせ、停車しているのみ。
 ……こんな住宅地の端に車? 道にでも迷ったのかな?
 そんなことをぼんやり考えながら周囲をキョロキョロとしていると、その声が聞こえた。

「おい、シカトすんなよ!」
「……へ?」
 聞き慣れた尖った声に目を凝らすと、車から降りてきたのはラフなTシャツにジーパン姿の五十嵐くんだった。
 
「え、これどうしたの?」
「親父のに決まってんだろ? パクったわけじゃねーし。四月生まれだから、速攻で教習所行ったんだ!  乗れよ!」

「おじゃまします」
 姉を先に車の後部座席に乗せ、次に私が乗り込む。
「車! 車!」
 座席をクッションのように飛び跳ねて遊ぶ姉にダメだと注意し、シートベルトを付ける。
 次に姉のドアの方に鍵をかけようと身を乗り出すと、ガチャと音がした。

「あ、ありがとう」
「別に」
「うん」
 シートベルトを留めながら、前方に座っている五十嵐くんに目をやる。
 ……ちゃんと分かってくれているんだな。不意にドアを開けてしまう姉の衝動性を。

 姉は飛び跳ねたい気持ちを抑え、しっかり腰を据えている。そんな姿に目を細めていると、車はカチカチと方向指示器を指して走り出す。
 車はやはり速く、いつも歩いている通学路を抜け海岸道路を颯爽と走る。

「どこに行くの?」
「着いてからで良いだろー?」
「えーと……」
 見当もつかない行き先に、私の心拍はどんどんと速くなるのを感じ取る。
 どうしよう。人が多いところだったら迷惑になるし、だからって難しいこと出来ないし。
 はしゃぐ姉とは対照的に私の心は冷えていき、流れる海岸沿いの景色をただ眺めていた。