「捜索願いをされた方ですか?」
「はい。本当にお騒がせして申し訳ありませんでした!」
私は、また頭をガバッと下げる。
私がしっかり見ていなかったことにより、どれほどの人に迷惑をかけてしまったのだろう。そんな思いで。
「無事に見つかって良かったじゃないですか。それでは少し話を聞きますね」
若い男性警察官の優しい言葉が、私の心に沁み込んでいく。
私は聞かれるまま、姉が居なくなる前、居なくなったと分かった時の状況、見つかるまで何をしていたかを、逐一話していく。
ただ一つ気になったのは、私に事情を聞くのは分かるけど、もう一人の警察官が離れた場所で五十嵐くんに話を聞いていることだった。
「……あ、あの。五十嵐くんにも話を聞くのですか?」
「通報者ですからね。お姉さんを見つけた状況とかを、教えてもらわないといけないので」
「そうですか……」
どうしよう。ただでさえ迷惑かけたのに、これ以上迷惑かけてしまうなんて。
絶対、私達に関わらなければ良かったと思ってるよね?
いつも、そう。初めは姉が迷惑かけても、いいよいいよで許してくれる。だけど何回も積み重なっていくことに相手は苛立ちを覚えるようになり、姉と私を遠ざけていく。
姉のことを心より理解してくれるのは、渚と亜美だけ。
……二人居てくれたら充分じゃない。
自分にそう言い聞かせて、五十嵐くんの話が終わるのを待つ。しかし。
「ちょっと離れますね」
もう一人の警察官に呼び出された若い男性はバサバサと砂を跳ねさせながら駆けて行く。二人は何かをボソボソと話しているかと思えば、五十嵐くんに視線を向ける。
……え、何?
不穏な空気に、私は姉の手を強く握り締める。
一人残された五十嵐くんはやたら周囲を見渡して落ち着きがなく、力無い目で海を見つめていた。
いつもの尖らせた目はどこか力がなく、どうしてか分からないけど私の胸はギュッと締め付けられる。
意識が逸れた瞬間に、姉より放たれる手。ハッとなった私は姉の手をもう一度掴もうとするも、足早に駆け出してしまう背中。向かう先は海で、日没間近の為か押しては引いていく波がやたら暗かった。
五十嵐くんは、自分に寄ってくる砂浜を鳴らす音が聞こえたから姉の方に向きを変えた。姉の走ってくる姿にギョッとした表情を見せるも寄ってきた姉をそっと抱きしめてくれ、海に飛び込まないようにと止めてくれた。
「お姉ちゃん!」
私は駆け寄り、姉の手ではなく両肩を握る。
「だから海に入ったらダメなんだって! 溺れて死んでしまった人だっているんだよ!」
姉には再三、道路を走る車の危険も、川や海に入ってはいけないと言い続けている。絵や映像で説明してきた、外に出る時には毎回説明してきた、夏が近付くとプール以外の水遊びしてはいけないと言い続けていた、一人で外に出てはいけないと言い続けてきた。
なのにどうして分からないの? 伝わらないの? どうしたら理解してくれるの?
気付けば姉の肩を掴む手に力が入っていて、私は力無く俯いていた。
「こいつは、分かってるよ」
「え?」
顔を上げ声がする方に目をやると、そこには揺るがない瞳で姉を見つめる五十嵐くんの姿。そんな姉は、五十嵐くんを見つめニコッと笑いかけていた。
「だから。叱るのは、勝手に家を出て行ったことだけにしてくれないか?」
髪を掻き上げ、眉を下げ、一度こちらに合わせてきた目をスッと逸らしてくる。それはまるで何か後ろめたいことがあるようだった。
「それって、どうゆう……?」
「頼む」
スッと、頭を下げてきた。
「わ、分かったから! やめて!」
助けてもらったこっちが頭下げてもらうなんて、意味が分からないよ。
頭を上げた五十嵐くんが次に目をやったのは姉の方だったけどその眼差しはあまりにも柔らかくて、私の方が思わず息を飲んでしまった。
「すみません。お話したいことがあります」
足早に離れて行った五十嵐くんは、警察の人に話がしたいと声をかけた。
それに対し、私達はその場で待つことになった。
姉はすっかり落ち着き、五十嵐くんをじっと見ている。いつもはあちこちに注意がいってしまい一点に集中出来ない為、その真っ直ぐな眼差しに私は姉に見入ってしまっていた。
「すみません、もう一点よろしいですか? お姉さんはどれぐらい相手に合わせて行動が取れますか?」
「え?」
警察官の方より問われた意図は不明だったけど姉は決められた行動以外は難しく、相手に合わせることは出来ない。無理矢理に合わさせようとすると混乱からパニックを起こし、手がつけられなくなる。そう、ありのままを説明した。
その話を聞いた警察官の方はまた二人で話を始め、すっかり周囲は暗くなっていた。
「はい。本当にお騒がせして申し訳ありませんでした!」
私は、また頭をガバッと下げる。
私がしっかり見ていなかったことにより、どれほどの人に迷惑をかけてしまったのだろう。そんな思いで。
「無事に見つかって良かったじゃないですか。それでは少し話を聞きますね」
若い男性警察官の優しい言葉が、私の心に沁み込んでいく。
私は聞かれるまま、姉が居なくなる前、居なくなったと分かった時の状況、見つかるまで何をしていたかを、逐一話していく。
ただ一つ気になったのは、私に事情を聞くのは分かるけど、もう一人の警察官が離れた場所で五十嵐くんに話を聞いていることだった。
「……あ、あの。五十嵐くんにも話を聞くのですか?」
「通報者ですからね。お姉さんを見つけた状況とかを、教えてもらわないといけないので」
「そうですか……」
どうしよう。ただでさえ迷惑かけたのに、これ以上迷惑かけてしまうなんて。
絶対、私達に関わらなければ良かったと思ってるよね?
いつも、そう。初めは姉が迷惑かけても、いいよいいよで許してくれる。だけど何回も積み重なっていくことに相手は苛立ちを覚えるようになり、姉と私を遠ざけていく。
姉のことを心より理解してくれるのは、渚と亜美だけ。
……二人居てくれたら充分じゃない。
自分にそう言い聞かせて、五十嵐くんの話が終わるのを待つ。しかし。
「ちょっと離れますね」
もう一人の警察官に呼び出された若い男性はバサバサと砂を跳ねさせながら駆けて行く。二人は何かをボソボソと話しているかと思えば、五十嵐くんに視線を向ける。
……え、何?
不穏な空気に、私は姉の手を強く握り締める。
一人残された五十嵐くんはやたら周囲を見渡して落ち着きがなく、力無い目で海を見つめていた。
いつもの尖らせた目はどこか力がなく、どうしてか分からないけど私の胸はギュッと締め付けられる。
意識が逸れた瞬間に、姉より放たれる手。ハッとなった私は姉の手をもう一度掴もうとするも、足早に駆け出してしまう背中。向かう先は海で、日没間近の為か押しては引いていく波がやたら暗かった。
五十嵐くんは、自分に寄ってくる砂浜を鳴らす音が聞こえたから姉の方に向きを変えた。姉の走ってくる姿にギョッとした表情を見せるも寄ってきた姉をそっと抱きしめてくれ、海に飛び込まないようにと止めてくれた。
「お姉ちゃん!」
私は駆け寄り、姉の手ではなく両肩を握る。
「だから海に入ったらダメなんだって! 溺れて死んでしまった人だっているんだよ!」
姉には再三、道路を走る車の危険も、川や海に入ってはいけないと言い続けている。絵や映像で説明してきた、外に出る時には毎回説明してきた、夏が近付くとプール以外の水遊びしてはいけないと言い続けていた、一人で外に出てはいけないと言い続けてきた。
なのにどうして分からないの? 伝わらないの? どうしたら理解してくれるの?
気付けば姉の肩を掴む手に力が入っていて、私は力無く俯いていた。
「こいつは、分かってるよ」
「え?」
顔を上げ声がする方に目をやると、そこには揺るがない瞳で姉を見つめる五十嵐くんの姿。そんな姉は、五十嵐くんを見つめニコッと笑いかけていた。
「だから。叱るのは、勝手に家を出て行ったことだけにしてくれないか?」
髪を掻き上げ、眉を下げ、一度こちらに合わせてきた目をスッと逸らしてくる。それはまるで何か後ろめたいことがあるようだった。
「それって、どうゆう……?」
「頼む」
スッと、頭を下げてきた。
「わ、分かったから! やめて!」
助けてもらったこっちが頭下げてもらうなんて、意味が分からないよ。
頭を上げた五十嵐くんが次に目をやったのは姉の方だったけどその眼差しはあまりにも柔らかくて、私の方が思わず息を飲んでしまった。
「すみません。お話したいことがあります」
足早に離れて行った五十嵐くんは、警察の人に話がしたいと声をかけた。
それに対し、私達はその場で待つことになった。
姉はすっかり落ち着き、五十嵐くんをじっと見ている。いつもはあちこちに注意がいってしまい一点に集中出来ない為、その真っ直ぐな眼差しに私は姉に見入ってしまっていた。
「すみません、もう一点よろしいですか? お姉さんはどれぐらい相手に合わせて行動が取れますか?」
「え?」
警察官の方より問われた意図は不明だったけど姉は決められた行動以外は難しく、相手に合わせることは出来ない。無理矢理に合わさせようとすると混乱からパニックを起こし、手がつけられなくなる。そう、ありのままを説明した。
その話を聞いた警察官の方はまた二人で話を始め、すっかり周囲は暗くなっていた。



