朝六時、カーテンを開けると差してくる真夏の太陽。
 その日差しは強く今日も暑くなるのだと私達に知らせてきて、また決められた一日が始まる。
 昨日は京子先生に会った為か、姉は少しずつ元気を取り戻し気持ちの折り合いをつけられたようだ。

 スクールバスに乗り座席より手を振る姉に振り返し、小さくなっていくバスを見送る。
「ふぅ……」
 気付けば声が出そうになり、口元を抑えて一息吐く。
 気に掛ける存在が居なくなる。それがどれだけ肩の力が抜けることか。
 ……学校、行かないといけなよね? 行けるんだから。
 頭では分かっているけど、前に進んでいかない足。
 これは本当に私の体なのか? そんな考えが過るほどの頭と体の意思が乖離していた。


「昨日は休んでごめんね」
 重たい足を引きずって学校へ登校しショートホームルームが終わった後、同じ球技大会の担当になっていた男子の元に行き声をかける。
「別に、いいし」
 そうは返してくれるけど眉を顰め、こちらに目を向けてくれない。明らかに機嫌悪い雰囲気で、私は早々に自席に戻る。
 仕方がないよね。
 はぁ……。

 係の仕事がある日に休んだ自分が悪い。
 そう自分に言い聞かせるも、ズンと重いものがのし掛かる心。クラスメイトの視線が痛い。……いや。
 よくよく周囲を見渡すと、こちらに視線をやり口元を抑えている。笑われている? 何かしたっけ?

「未咲、大変だったね」
 周囲の視線に小さくなっていると、いつものように声をかけてくれるのは渚と亜美。
「昨日はごめんね。どうだった?」
「私達が負けるわけないし!」
 そう豪語する二人。

「さすが!」
 勝手に拍手し、心より嬉しい感情。
 しかしその反対に湧き立つ、もう一つの感情。
 ……私が居たら負けてたよね? 居なくて良かったのかも。帰りだって、二人で楽しそうだったし。
 自分の存在感を否定するもの。
 
「……トイレ行かない?」
「え? うん」
 なんとなくで行ったトイレで、私はクラスで起きていた異変にようやく気付いた。
 鏡に映った私は髪がぐちゃぐちゃで、カッターシャツとリボンが歪んでいて、何より目下に黒い隈が浮かんでいた。
 自分のケアをするのを忘れていた。
 そう思いながら髪を手櫛でとき、カッターシャツとリボンを直していく。
 目元はスカートのポケットよりコンシーラーを出し、軽く抑えていく。万年の隈に悩まされていた私は、百均のコンシーラが手放せなかった。
 ……だからクラス内で笑われていたんだ。
 ようやく腑に落ちた私は、最低限の身だしなみを整えていく。
 二人はさりげなく教えてくれたんだ。
 その事実に、また胸が温かくなる。だからこそ私は学校に通えているのだから。