「じゃあ、行こっか!」
 私もお弁当箱と水筒の入ったリュックを背負い姉の手を左手で握りながら、右手で家の鍵を掛ける。
 ギラっと差す太陽の光は強く、現在が昼時だと教えてくれる。そんな強い日差しを防いでくれる木々のトンネルを抜けながら、目的地に向かって行く。

「お姉ちゃん、嫌なことは私に話していいからね?」
 少しだけ姉の心にノックをしてみる。辛いことを言葉に出来たら、どれだけ楽だろう。そんな思いで。
 しかし姉からは何も返ってこず、話せる状態ではないようだ。こうやって上手く話せない姉は辛さが蓄積していき、より自己肯定感が低くなっていく。
 やりたいことが上手く出来ない、言いたいことが上手く言えない。相当なストレスだろう。

 そう思いながら十分ほどで辿り着いた先は海が一望出来る浜辺で、休憩が出来る屋根付き休憩時がある。
 子供の頃よりここには家族で来ていて、母が作ってくれたお弁当をみんなで食べていた。
 亡くなってから、そんなこともなくなったんだけどね。

「ここ、小さい時にお母さんとお父さんとで来た場所なんだよ」
 そう声をかけると姉は顔を上げ、海を眺めていた。

 お弁当箱を開き、私が朝作ったお弁当を二人で食べる。
 お箸で摘んだのは卵焼き。一口含んで思うのは、あの時食べた味とは違うという虚しさだった。

 空を見上げれば夏特有の大きな入道雲が、風に乗って足早に去っていく。
 テスト終わった後で良かったな。後日受けることになったら、ズルいって言われるところだったから。
 そんな自分への慰めを、私は何度捻り出してきたのだろうか。
 余計に虚しさに拍車がかかった私は喉に何かが突っかかったような錯覚を起こし、お弁当箱をそっと横に置いた。

 私、ずっとこのままなのかな?
 見上げた上空は風の流れが速いのか、先程まであったふわふわの入道雲はなくなっており、快晴の空へと変貌していた。
 あの入道雲に乗れたら、どこかに連れて行ってくれたかもしれない。私はその機会を、また逃してしまったのだろうか。

 ハッとなった私が再度横に目を向けると姉は変わらず海に視線を送っており、この場に留まっている。
 はぁーと大きな溜息を漏らした私は、胸に安堵の感情が沁み渡っていくのを感じる。