うれしいもの。

 まだ読んだことのなかった物語の第一巻を読んで、「ぜひ続きを読みたい」と思っていたら、続きを読めたとき。まあ、読んでみたら、ガッカリするパターンもあるけれど。

 人が破り捨てた手紙をつなぎ合わせ、ぴったり合ったのを読んで、解読できたときはうれしい。盗み読みの快感!

 怖い夢を見て、悪いことの予兆かと心配でたまらないときに、夢判断してもらって安心できたときは、とてもうれしい。

 定子さまの前に女房たちが大勢控えていて、世間話の最中、わたしにぴったり目を合わせながらお話しくださるのは、本当にうれしい。ゾクゾクする!
 推しのトークイベントに参加したら、自分だけを見て話してくれるのと同じだものね。

 愛する人が、高貴な御方に「あれはなかなかしっかり者だ」と褒められているのを聞いたとき、うれしかったりする。

 メイド・イン・陸奥の上質な紙、または普通の紙でも真っ白でキレイなものが手に入ったら、うれしい。スラスラとエッセイを書ける気がする!

 ちょっとした遊びであっても、勝負事に勝つのは、めっちゃうれしい。

「我こそが一番」と大きな顔をしている人を、まんまと騙せたときも、うれしい。その相手が女の場合より、男だったときのほうが、うれしさが増すわね。「このお返しはさせてもらうからな」と思ってるだろうなって、常に気が許せないのも面白いけれど、平気なフリして、こちらを油断させようとしてくるのも、また面白い。
 駆け引きのスリルってやつね。

 憎たらしい人が酷い目に()うのもうれしいわ。こんなことを思ってたら、仏様のバチが当たるかも、だけど。

 長い間、重い症状で(わずら)っていたのがすっかり治ったときも、うれしい。それが愛する人の全快だったら、自分の場合よりさらにうれしい。

 ある日のこと。定子さまのおそばに女房たちがぎっしり座っているので、あとからやってきたわたしは、少し離れたところに座っていた。
 すると、定子さまはすぐにわたしを見つけて、
「こちらへ」
 と、おっしゃってくださった。
 女房たちが、サッと道を開けて、定子さまのすぐおそばに近づけたときの、うれしかったこと!
「推しのオキニになれたんだ!」って、幸福感と、優越感で胸がいっぱいになった瞬間だった。