(もう……諦めていたのに)

たった1つ残していた夢……世界で大好きな2人を、私がどれだけ想っているかを記したあれを遺して旅立つ事だけを目標に、限界まで、登校して勉強して、学べる事は全て学んでそれを夢に流し込むだけの為の最後だと思っていた。

「ねえ、君の夢って何?」

ずっと聞かないでいてくれた夢。
またあの癖が出てしまっているという事は、聞くか聞かないかまだ迷っているのだろう。
本当は死んだ後の遺言にしたかった夢の話。

「小説……書いてたの」
「うん、それは知ってる」

それはそうだろうな。
何故ならあの地下倉庫で二人きりでいる時、ぶつぶつと

「あれは違う」
「この登場人物の参考資料が見つからない」

 と思わず口に出してしまう事も度々あったから。

「まさか、小説を書く事だけが君の夢ってわけじゃないよね」

観念して、私は完璧だとこの時まで信じていたかった、自分の死すら自分自身で納得させるために創り上げた夢の話を始めた。

「私の小説をベストセラーにしたいの。死ねばそれが普通の道よりも確実になるから」
「手術を受けたくないって事?死にたいってこと!?たかが小説に君以上の価値なんて」
「ないなんて言わせない」
「雪穂ちゃん……」
「この小説は、死ぬって決められた運命を突きつけられた時から、私の全てになったの。それを否定するのは、私を否定する事と同じよ」
「わかってる」
「わかってないよね。だから、否定することができるんだよね」
「わかってないのは雪穂ちゃんの方だよ」
「え?」
「小説のベストセラー?そんな事の為に僕や君のお母さんの気持ち、ちっとも顧みてくれなかったなんて、悲しすぎて涙も出ないよ」
「どういう意味?」
「雪穂ちゃん、何でそこまで小説のベストセラーなんかにこだわるの?」
「え?」
「君に片思い歴5ヶ月の僕が応えてあげるよ。お母さんの為だろう?」
「どうしてそれを……」