そんなことを考えてぼんやりとしていたときだった。

空気を震わせるほど大きなエンジンの重低音が聞こえてきて、私と優海は反射的にそちらを見た。

真っ赤なスポーツカーが爆音を響かせながら、駅前の大通りを猛スピードで走ってくる。

ざわ、と嫌な予感がした。

人通りの多い駅前に来ても、暴走車はそのまま目にも止まらぬ速さで走りつづける。

私は思わず優海の手をぎゅっと握った。

彼が「大丈夫だよ」と言うように強く握り返してくれたけれど、胸騒ぎは消えない。

前方の信号は黄色から赤に変わったけれど、車は少しスピードを落とさず、私たちの立っている交差点に向かってくる。

危ない、と叫びそうになった。

周りの人たちも異変に気づき、手ぶりで止めようとする男の人もいる。

それでも暴走車はそのまま交差点に突っ込んで、急ハンドルで右に曲がった。

直進してきた対向車があわや衝突しそうになり、けたたましくクラクションを鳴らしたけれど、かまわずそのまま進んでくる。

見ると、私の前にいたおじいさんが、もしかしたら耳が遠いのかもしれない、車に気づかずに横断歩道を渡り始めていた。

ざっと血の気が引く。

反射的に手を伸ばしたけれど、届かなかった。

もうだめだ、と思った次の瞬間、優海が車道に飛び出しておじいさんの腕をつかんだ。

それと同時に車が突っ込んでくる。