ぶう垂れる俺はコツはないのかと相手に質問。


「見て盗めたんじゃないのか?」


くつくつ喉で笑うリーマンは、練習あるのみだとスンバラシイ助言をしてくれた。

ゼンッゼン答えになってねぇよ!

 

  

「なあに遊んでるんだ、寺嶋」
 




第三者の声。

顔を上げれば、仕事仲間なのかスーツを身に纏ったリーマンがこっちに歩んで来ている。

見るからに真面目そうなリーマンは、つんつんの短髪が印象的だった。


「よっ」遅かったじゃないか、早く来ないからひとりで昼飯に行くところだったぞ、寺嶋と呼ばれたリーマンは片手を挙げて挨拶。交渉は上手くいったのかと仕事について質問を飛ばした。

「上々だ」肩を竦めて鼻を鳴らしている様子から、あんまり上々ではなさそうだ。顔に疲労の色が見え隠れしている。

 
再三何をしていたのだと質問するリーマンは寺嶋さんを憮然と流し目。


「坊主にサッカーを教えてたんだよ」


なっ? 寺嶋さんは、俺を見下ろして頭に手を置いた。
 
教えてくれたというよりはからかってくれたって方が近いんだけど。


「お前も教えてやれば? サッカーしてたんだろ?」

「寺嶋みたいに習ってたわけじゃねえ。遊び程度でしてただけだ。それにサッカーはもう……、もう……、」
 

向こうの言葉が途中で途切れた。
 
どうしたんだと寺嶋さんが相手に声を掛ける。
 
けど、向こうはそれどころじゃないようだ。
まるでお化けでも見たかのように、こっちを凝視して唇を震わせている。

うんっと首を傾げる俺は、「どうしたのお兄さん?」具合でも悪い、鼻の頭をぽりぽりと掻いた。

そんなに見られても困るんだけど。

ぎこちなく笑ってくるその人はようやくなんでもないと首を横に振った。


「疲れているんだよな」


そんなことがあるわけない、独り言を口にしてガリガリと頭を掻く。

 
変な人だな……。

心中でそんなことを思いつつボールをポンッと蹴り、リフティングを再開する。