同じ日の違う記憶

 真子は、私にとって初めての友達だった。

 小学三年生の秋ごろ。社会の校外学習で「私たちの住む町」を調べるために、グループを作って町を歩くことになった。
 引っ込み思案な私にはずっと友達がいなくって、行事の時だけグループに入れてもらう存在だった者にとって、苦痛なイベントでしかない。

『こないだは私たちが一緒にいたんだから、次は変わってよ!』
 余りものの私をグループで押し付け合っていて、そんな剥き出しの言葉も聞こえてくる。いっそのこと一人で行動したいけど、そうはいかないらしい。
 ピリッとした空気感が教室全体にまとわりついて、気持ち悪い。
 ホントに何なんだろう、この時間。
 みんなが楽しくなくて、怒って、傷付いて……。

『雅ちゃん、私たちのグループに入らない?』
 席で俯いていると、一人の女子に話しかけられた。
 胸元までの長く艶のある髪、水色のカーデガンにピンクのスカートがよく似合う、可愛い子だった。
 小崎真子ちゃん。
 既に友達同士でグループを作っていたのに声を掛けてくれた。いるだけでテンションが下がると言われていた私を。

『ここがバス停だね。雅ちゃんはバス乗ったことある?』
 柔らかな秋晴れの日。
 校外学習が始まると真子は私に話しかけてくれて、同じグループの女子とも話が出来るようにしてくれた。
 それは校外学習が終わってからも同じで、いつの間にか一緒にいて、真子が風邪とかで学校に来れない時でもグループに入れてくれて、仲間として認めてくれた。

 私の人生で一番楽しかったのは三、四年生の頃だったと断言できる。
 だけど五年生になるとクラス替えになり、仲良くしてくれていた三人とは別々になった。
 クラスが離れても五人で仲良くしようと交流は続けたけど、やっぱり違うクラス同士で今までの関係を続けるのは難しかった。

 高学年になると周りが急にオシャレに目覚めていって、真子もピンクや水色から白や黒の大人っぽい服装に変わっていく。
 私も頑張ってみたけど、元が悪いから可愛くなれるはずもない。
 クラスの女子が私のこと笑っている……ような気がした

『えー、気のせいじゃない?』
 下校中、歩道橋を登りながら、クラスの視線について思い切って相談してみた。
 だけど真子は苦笑いをして、別のハナシへと流していく。

『真子には分かんないよ』
 気付いたら、思わずホンネが出ていた。
 トゲのある言い方。私って性格まで捻くれてるんだな。
 顔も心も醜いなんて、救いないじゃん。

『うーん。じゃあ、周りの目が気にならないぐらい可愛くなったら良いんじゃない?』
 土曜日ウチで遊ぶ約束だったのに、いきなり予定変更と言って目的地も言わずにバスに乗せられて、二十分後に着いたのは町のショッピングモールだった。

『これなんていいんじゃない?』
 今まで恥ずかしくて入れなかった大きめのサイズの店に堂々と一緒に入ってくれて、気になるお腹を隠してくれるフワッとしたワンピースをチョイスしてくれた。

『髪は上げた方が良いんじゃない?』
『えぇ、顔出ちゃうじゃん!』
 ウチに帰って来てからも真子のプロデュースは続いて、この丸顔を出すべきだと言ってきた。
 真子は背中まで髪を伸ばしていて、長い髪が好きだと言っていた。体育の時や気合を入れる時に髪を括る。またそれが可愛いくって。
 いやだからって、同じにされても!

『サイドを出したら大丈夫だって』
 真子がいつも手首にしているシュシュを取って緩く結んでくれると、モサっとしていているよりマシに見えた。

『ほらっ、絶対上げた方が良いって!』
『そう……かな?』
『良かったら、これ使って』
 プレゼント用の袋に入っていたのは真子が持っているピンクのシュシュで、お揃いだった。
 気付かない間に買っていてくれたんだ。
 真子……、私は。


『あれ、イメチェン? いいじゃん!』
『ねー、雅は可愛いワンピース系が似合うよね!』
 教室に入った途端に女子の視線に後ず去ってしまったけど、大体の女子は「可愛い」と言ってくれた。

『あ、髪も一緒なんだ』
『雅とモールで買ったの! 可愛いでしょ?』
 真子のアシストのおかげで、クラスの女子は変わった私を受け入れてもらえた。
 もちろん、みんながいい顔していたわけじゃのは分かってる。カガミに映る私は、他の子に比べたらぜんぜん可愛くない。
 だけど、真子の言ってくれた通り、自信を持ったら周りの視線は気にならなくなるんだね。
 ダサTシャツから、流行りのワンピースに変わった私。生地がふわふわして、なんか気持ちまで前向きになっていく。
 だから少しだけ、自分を肯定することができたんだ。