「あーあ、早く春休み来ないかなぁ〜」
「ちょ、冬休み終わったばっかじゃん!」
「春はどこ行く? 今年は受験とかあるし、思い切って東京とか行っちゃう?」
「ヤッバァ! 行く行く!」
こっちに向かってくる女子三人組は、東京のショップで何を買うかのハナシをしているのに、制服のスカート下にはジャージのズボンに分厚い長靴を履いていて、今の格好とハナシがあまりにもミスマッチ過ぎる。
だけどこんな格好をしているのはこの人たちだけでなく、真子も、その友達も、学校から出て来た生徒もみんな同じだった。
あ、そっか。ミスマッチだったのは私の方だったんだ。
それに気付いた時にはもう遅かったようで、さっきまで笑っていた女子たちが私を見て立ち止まり、ヒソヒソ話始めていた。
私は……、私は初めて来た場所の見知らぬ人にまで悪口を言われる存在なの?
なんとか保っていた心が、どんどんと黒いものに染まっていく気がする。
もう、ヤダ……。
「あのー。ウチの学校の人、じゃないですよね?」
「あ、はい」
真ん中にいた女子が率先して前に出て来て、私に話しかけてきた。
どうしよう。どうしよう。ぜったい目障りだと思われているよね?
そう思えば思うほど視界が揺れてきて、目の前にいる人の整った顔までもが歪んで見えた。
「ごめんなさい、ジャマですよね! か、帰りますっ!」
キモい、存在自体が不快、死んだら面白いのに。
どんな言葉も聞きたくない私はクルッとその人から背を向け、一人走り出す。
怖い、怖い、人が怖い!
次は何を言われるのか、どんなふうに笑われるのか、どれほどのキツイ言葉をぶつけられるのか。
オバケとか、怪奇現象とか、そんなものより一番怖いのは人間に決まってる。
だって、私を……。
「ひゃあ!」
危ないと思った時には遅かった。
硬く凍りついた地面と、寒さのせいで感覚がとっくになくなっていた足は思う通りに動いてくれず、ドサッと盛大にすっ転んでしまった。
サイアク、また鈍臭いって笑われて……。
「大丈夫?」
ザクザクザクと雪を踏む音が近づいてきて、膝をついていた私を見知らぬ人たちが起き上がらせてくれた。
「ごめんなさい。イヤな意味で声かけたんじゃなくて、心配だったから……。友達、待ってるの?」
私の落としたカバンを拾って、雪まで払って渡してくれる姿はあまりにも優しくて、こんなふうに扱ってもらうのは、いつ振りだろう?
肌が出ている場所に当たる冷気に、手と膝のヒリヒリとした痛みまで加わって、また泣けてきた。
だけどこれ以上メイワクかけられないから、唇をキュッと噛み締めて我慢する。
真子にも、この人たちにも。
「あ、いえ。私に、そんな人はいません」
私に友達なんていない。たった一人の大切な人は、もういないから。
「……そう、誰かと一緒じゃないんだね。バスで来たの?」
「はい」
私がそう返事すると三人は顔を合わせて「やっぱり」と言いたげな顔をしていて、ピクンと反応してしまった。
「あ、ごめんね。あのね、今すぐ帰った方がいいよ! ここらへん山道で危ないから、吹雪いてきたらバスを運休させることがあるの!」
「う、運休! ウッソぉ……」
道路の方を見ると車はかろうじて動いているけど、そのスピードはトロい私が走った方が速いぐらいで、バスが止まるかもしれないというハナシはもっともだった。
「あ、でも。今は動いてるだろうし、雪道でバス遅れてるだろうから、急いだら四時代のバスに乗れるかも!」
この地域はバスが一時間に一本しかないらしく、最終の五時代が運休になったら帰りの足がなくなる。
現在、四時十五分。バスの予定到着は四時二十分だったと記憶していて、ここまで来るのに徒歩二十分以上はかかっていたから、どう考えても間に合わない状況。いつもならすぐに諦める、だけど。
空を見上げるといつの間にか雪は止んでいるけど、一面灰色に覆われていて、いつまた雪が降ってきてもおかしくない状態だった。
「あ、ありがとうございます!」
「転けないように気を付けてね!」
「はいっ!」
ペコッと頭を下げた私は、バタバタバタと走り出す。
どこまでも学習能力のない私は一瞬スルッと滑り掛けるけど、グッと足に力を入れる。
校門付近は雪かきしてあったけど、そこを抜けると雪がたんまり積もっていて、歩道なんてあったもんじゃない。
だから行きと同じく車道を使うけど凍りついた地面はツルツルで滑りやすく、下り道であることも相まって余計に怖い。
転けないように出来るだけ足にしっかり体重をかけ、だけど走らないといけないから、その調整が難しい。
冷たい空気が息を吸うたびにノドに当たって、ピリッと痛くなる。
真子が通っている山里高校は山を越えるから、夏は暑く冬は寒い。その上、雪が多く降るから通学が大変と聞いていた。
私たちが住む町には山里高校の偏差値に合った高校が付近にあり、学科や部活など特殊な特徴を持ち合わせているわけでもないのに、わざわざこんな遠くに進学する人なんていない。
だけど真子は一人、こんな遠くて通うのが大変な高校を選んだんだね。……私のせいで。
「はぁはぁはぁ……」
早くバス停に行きたい気持ちと、それに付いてきてくれない重い体。
目線を少し下げると、膨れ上がっている薄いコートに、足を前に動かすたびに膝丈スカートから出ている脂肪が醜く揺れている。
周囲に植えられている木々のように立派過ぎる胴体に、象のように短くて太い足。スカートの下にジャージのズボンを履いていた真子の足より太く見える。
服装的には私の方がオシャレに決めているはずなのに、制服のスカートにヌボッとしたジャージのズボンと機能性重視と思われる長靴まで履いている真子の方が圧倒的に可愛いなんて。
私って、惨めだなぁ。
こんなんだから、言われちゃうんだよね。
「ちょ、冬休み終わったばっかじゃん!」
「春はどこ行く? 今年は受験とかあるし、思い切って東京とか行っちゃう?」
「ヤッバァ! 行く行く!」
こっちに向かってくる女子三人組は、東京のショップで何を買うかのハナシをしているのに、制服のスカート下にはジャージのズボンに分厚い長靴を履いていて、今の格好とハナシがあまりにもミスマッチ過ぎる。
だけどこんな格好をしているのはこの人たちだけでなく、真子も、その友達も、学校から出て来た生徒もみんな同じだった。
あ、そっか。ミスマッチだったのは私の方だったんだ。
それに気付いた時にはもう遅かったようで、さっきまで笑っていた女子たちが私を見て立ち止まり、ヒソヒソ話始めていた。
私は……、私は初めて来た場所の見知らぬ人にまで悪口を言われる存在なの?
なんとか保っていた心が、どんどんと黒いものに染まっていく気がする。
もう、ヤダ……。
「あのー。ウチの学校の人、じゃないですよね?」
「あ、はい」
真ん中にいた女子が率先して前に出て来て、私に話しかけてきた。
どうしよう。どうしよう。ぜったい目障りだと思われているよね?
そう思えば思うほど視界が揺れてきて、目の前にいる人の整った顔までもが歪んで見えた。
「ごめんなさい、ジャマですよね! か、帰りますっ!」
キモい、存在自体が不快、死んだら面白いのに。
どんな言葉も聞きたくない私はクルッとその人から背を向け、一人走り出す。
怖い、怖い、人が怖い!
次は何を言われるのか、どんなふうに笑われるのか、どれほどのキツイ言葉をぶつけられるのか。
オバケとか、怪奇現象とか、そんなものより一番怖いのは人間に決まってる。
だって、私を……。
「ひゃあ!」
危ないと思った時には遅かった。
硬く凍りついた地面と、寒さのせいで感覚がとっくになくなっていた足は思う通りに動いてくれず、ドサッと盛大にすっ転んでしまった。
サイアク、また鈍臭いって笑われて……。
「大丈夫?」
ザクザクザクと雪を踏む音が近づいてきて、膝をついていた私を見知らぬ人たちが起き上がらせてくれた。
「ごめんなさい。イヤな意味で声かけたんじゃなくて、心配だったから……。友達、待ってるの?」
私の落としたカバンを拾って、雪まで払って渡してくれる姿はあまりにも優しくて、こんなふうに扱ってもらうのは、いつ振りだろう?
肌が出ている場所に当たる冷気に、手と膝のヒリヒリとした痛みまで加わって、また泣けてきた。
だけどこれ以上メイワクかけられないから、唇をキュッと噛み締めて我慢する。
真子にも、この人たちにも。
「あ、いえ。私に、そんな人はいません」
私に友達なんていない。たった一人の大切な人は、もういないから。
「……そう、誰かと一緒じゃないんだね。バスで来たの?」
「はい」
私がそう返事すると三人は顔を合わせて「やっぱり」と言いたげな顔をしていて、ピクンと反応してしまった。
「あ、ごめんね。あのね、今すぐ帰った方がいいよ! ここらへん山道で危ないから、吹雪いてきたらバスを運休させることがあるの!」
「う、運休! ウッソぉ……」
道路の方を見ると車はかろうじて動いているけど、そのスピードはトロい私が走った方が速いぐらいで、バスが止まるかもしれないというハナシはもっともだった。
「あ、でも。今は動いてるだろうし、雪道でバス遅れてるだろうから、急いだら四時代のバスに乗れるかも!」
この地域はバスが一時間に一本しかないらしく、最終の五時代が運休になったら帰りの足がなくなる。
現在、四時十五分。バスの予定到着は四時二十分だったと記憶していて、ここまで来るのに徒歩二十分以上はかかっていたから、どう考えても間に合わない状況。いつもならすぐに諦める、だけど。
空を見上げるといつの間にか雪は止んでいるけど、一面灰色に覆われていて、いつまた雪が降ってきてもおかしくない状態だった。
「あ、ありがとうございます!」
「転けないように気を付けてね!」
「はいっ!」
ペコッと頭を下げた私は、バタバタバタと走り出す。
どこまでも学習能力のない私は一瞬スルッと滑り掛けるけど、グッと足に力を入れる。
校門付近は雪かきしてあったけど、そこを抜けると雪がたんまり積もっていて、歩道なんてあったもんじゃない。
だから行きと同じく車道を使うけど凍りついた地面はツルツルで滑りやすく、下り道であることも相まって余計に怖い。
転けないように出来るだけ足にしっかり体重をかけ、だけど走らないといけないから、その調整が難しい。
冷たい空気が息を吸うたびにノドに当たって、ピリッと痛くなる。
真子が通っている山里高校は山を越えるから、夏は暑く冬は寒い。その上、雪が多く降るから通学が大変と聞いていた。
私たちが住む町には山里高校の偏差値に合った高校が付近にあり、学科や部活など特殊な特徴を持ち合わせているわけでもないのに、わざわざこんな遠くに進学する人なんていない。
だけど真子は一人、こんな遠くて通うのが大変な高校を選んだんだね。……私のせいで。
「はぁはぁはぁ……」
早くバス停に行きたい気持ちと、それに付いてきてくれない重い体。
目線を少し下げると、膨れ上がっている薄いコートに、足を前に動かすたびに膝丈スカートから出ている脂肪が醜く揺れている。
周囲に植えられている木々のように立派過ぎる胴体に、象のように短くて太い足。スカートの下にジャージのズボンを履いていた真子の足より太く見える。
服装的には私の方がオシャレに決めているはずなのに、制服のスカートにヌボッとしたジャージのズボンと機能性重視と思われる長靴まで履いている真子の方が圧倒的に可愛いなんて。
私って、惨めだなぁ。
こんなんだから、言われちゃうんだよね。



