同じ日の違う記憶

『ねえ、雅。本当なの? 本当に雅が、私が悪口を言ってたと二人に……』
 通り雨が降った、中学二年生の七月。放課後の歩道橋で雅を待ち伏せて、単刀直入にそう聞いた。
 ピクッとなり俯くその姿からは、返答はない。
 この歩道橋は屋根があるタイプで、上空から打ちつける雨音がやたら耳につく。
 傘を持っていなかった雅は濡れていて、髪や制服からポタポタと雫が落ちていた。

 雅、私は今あなたを疑ってるんだよ? なのにどうして黙ってるの?
 疑うなんてひどい怒ってよ、そんなことするわけないと否定してよ。
 違うと否定してくれたら信じたよ。どれほど下手な嘘だったとしても。
 でも黙るのは酷いよ。認めたようなものじゃない。
 もし私が同じことを雅から聞かれたら全力で否定して、雅の濡れ着を晴らそうとする。
 だから、それが答えだった。

『真子って、何しても怒らなさそうだね?』
 尚美や真凛、クラスの子たちに、そう言われていたけどそんなわけない。
 言葉にしないだけで、態度に出さないだけで、怒るに決まってる。ただ、どうやって怒りを出したらいいか分からないだけ。
 だけど今、心の奥底から溢れる感覚に分かったような気がした。怒鳴れば良いんだ。
 叩いたっていい。それぐらいのことされたんだから。

 すうっと息を吸って吐いたけど、声は出なかった。
 雅が、泣いていたから。
 何それ、意味分からない。なんで雅が泣くの? 泣きたいのは私の方だよ!
 そう怒鳴れば良いのに、私は……。
 持っていた折りたたみ傘を雅に押し付け、走り出していた。
 自分でも分からない。罵れば良いのに傘なんて渡して、自分は強く降る雨に打たれながら走ってて、何やってるの?
 雨粒は冷たいのに目だけは熱くて、本当に嫌になっちゃうね。
 夏の雨に打たれたコンクリートの蒸し暑さと匂いは、今でも嫌いだ。