同じ日の違う記憶



 バス停に張り出された「最終バスは雪のため運休となります」の文字。
 走ってきたのに乗らないなんてバカだよね、私。
 でもどこか危機感がないのは、親という頼れる存在がいてくれたからだ。
 スマホを取り出してお母さんに電話したら、全て解決。お母さんは真子が山里高校に進学したことを知ってるから、私と真子がケンカしたままだと知ってるから、何も聞いてこないだろう。
 そう、お母さんは私が中学生のころにした、卑怯でズルい行いを知らないでいる。これからも、言うつもりはない。
 なんて浅ましいのだろう。

 スマホの電源を切り、学生カバンに入れる。
 これは私への罰なんだ。だから、この山道を降りていかなければならない。自力で。
 完全に日が暮れた周囲は薄暗く、僅かな街灯と雪灯りを頼りに坂道を歩いていく。
 おそらく今は氷点下のようで地面は雪が凍り付いていて、足を滑らせたら転けてしまうだろう。
 そして私が歩いている横は崖で、今は暗くて分からないがバスに乗って山里高校に向かう時に思ったんだ。崖は急で、落ちたらどうなるんだろうって。
 なーんて。よく言うよ、そんな度胸ないくせに。
 私が弱いから、あんな選択しか出来なかったくせに。

 ……ごめんなさい。私、もう限界だったの。
 真子の隣にいると身の程知らずだとクラス中で笑われて、尚美と真凛の当たりはキツく、少し歩けば「ドシン」と体重のことでからかわれて、いつの間にか写真撮られててメッセージアプリで送られてきて。
 不意でもキレイに写ってる真子に、二重顎で目が細くて髪がボサっとしたダサい私。
 隣に並ぶのが、辛かったの。

『みんなで仲良くしよう』
 ムリだよ。そんなイジワルしてくる子たちと。
 だからウソをついたの。
 真子は、尚美と真凛のことバカにしていたよ。知能レベルが違いすぎて、こっちまで頭悪くなりそうだとグチってたと。
 四人グループを壊したかった。上辺だけの仲良しゴッコを終わらせたかった。
 まさかイジメに発展するなんて、本気で思わなかった。


「大丈夫?」
 ハッとなって顔を上げると、そこは夕陽に照らされた歩道橋の前だった。
 今日もなんとか学校を終わらせて家に帰ろうとしていたのに、帰り道でもない場所に来てしまったなんて。
 歩道橋の先には私たちの母校である北中学校があって、この道を真子と毎日歩いた。中学二年生のあの日まで。
 周囲を見渡すけど、みんな私の前を通り過ぎて行く人ばかりで、声を掛けてくれた人なんているはずもない。
 でも何でだろう。今の声は、真子の高校前で呆然としていた私に声を掛けてくれ、転けたら駆け寄ってきてくれた人たちに似ていた。
 ずっとずっと、掛けて欲しかった言葉。

 私ね、ぜんぜん大丈夫じゃなかったんだ。
 誰も私を見てくれなくて、苦しくて、ただ逃げ出したかった。
 もし、もしあの時、そう声を掛けてくれる人がいたら、私はあんなことしなくて済んでいたのかな?