具合が悪いと保健室に行ったら先生は察してくれたようで、早退を認めてくれた。
いつもより二時間早い下校だった。
心はずっと灰色なのに空は苛立つぐらいに晴れていて、眩しくてイヤになった。
そんな明るい町を歩いていると、気付けば思い出のバス停の前に立っていた。
『雅ちゃんはバス乗ったことある?』
そんな声が聞こえてきそうだった。
ここは、校外学習で来た場所。
一番楽しかった、あのころ。
『……山里、高校』
バスの停留先に書いてあったのは、真子が進学した高校の名前。
気付けば私は、バスに乗っていた。
始めは町を走っていたバスだったけど、だんだんと建物が少なくなっていって、見えたのは山に茂る木々と降り積もった雪だった。
バスは山道に合わせて左右に揺れて、少しずつ走行が遅くなり、次は前後に揺れる。
定刻より十分遅れたというアナウンスを聞きながらバスから降りていくと、一面銀世界という言葉が初めて浮かんだ。
車道にある足跡を追うように歩いていくけど、車も当然走っていて歩道に逸れるとふくらはぎまで積もった雪にローファーと紺の靴下が一瞬で死んだ。
だけど私の足は止まらなかった。
雪が入った足先はベチャベチャして気持ち悪いのに、二回も尻もちをついているのに、ただ見えている校舎に向かって歩いていた。
青色から灰色に変わっていく空を眺めていると、高校の敷地内からチャイムが鳴った。
しばらくすると生徒たちがたくさん出てきて、だんだんとまばらになっていった。
私は、ただ真子を探した。対面したらどうするかなんて考えもせずに、ひたすら。
もしかしたら見逃したのかもしれない。いや、見た目が変わりすぎていて分からなかったのかもしれない。
帰ろうか、もう少し待とうか。そんなことをぼんやりと考えていると、心臓がドクンと鳴った。
制服のスカートにジャージのズボンを履いて、極めつけにはおじさんが履きそうな長靴で歩いていることに、何とも言えない気持ちになった。
あ、でも、髪は伸ばしたんだ。……良かった。
どんどんと近付いてくると顔はハッキリ見えてくるけど、何かが違う。
笑い方、こんな感じだっけ? 目も、口元も、何かが違う。
そんなことをボンヤリ思っていると、とうとう真子はこっちに目を向けてきて視線が合った。
この時に確信した。
真子は顔付きも、笑い方も、相手に向ける目も全てが変わったんだって。
変えたのは、私だ。
『真子、どした?』
『知り合い?』
私を見て立ち尽くす真子に、囲むようにいた女子二人は肩を叩いたり、覗き込んだりして様子を見ている。
『あ、私は、真子と同じ中学で、と、とも……』
違う。ホントに友達なら、真子をこんな顔にさせない。
こんな、泣きそうな顔になんか。
そう思うと鼻がツンとして、これ以上言葉にならなかった。
『大丈夫?』
『一緒に居ようか?』
『……ありがとう。だ、大丈夫だから』
真子の友達だと思われる人たちは『じゃあ、明日ね』と声をかけて私に頭を下げて帰って行った。
『わ、私……、あのころは、ホントどうかしてて……。ずっと、後悔してて……。謝んなきゃと思ってたけど、家とか行ったらメイワクかなとか考えてて……。真子……、本当にごめんなさい』
顔を上げたら、真子は居なかった。
当然だ。あんな謝罪、受け入れてもらえるはずない。
友達に裏切られた真子の気持ちは置いてきぼりで、私はただ言い訳を並べていた。
自分の気持ちばっかで、真子の気持ちを考えず言い分を一切聞かなかった。
ここに来たのだってそう。新たな世界で新たな友達を作って私のことなんかとっくに過去のことにしていただろうに、いきなり押し掛けたらメイワクとか一切考えられていなかった。
ただカタチだけでも謝って、自分が楽になりたかっただけ。今の環境が辛いから、真子に会いたいと思ってしまっただけ。
そこに誠意なんて、何一つなかった。
いつもより二時間早い下校だった。
心はずっと灰色なのに空は苛立つぐらいに晴れていて、眩しくてイヤになった。
そんな明るい町を歩いていると、気付けば思い出のバス停の前に立っていた。
『雅ちゃんはバス乗ったことある?』
そんな声が聞こえてきそうだった。
ここは、校外学習で来た場所。
一番楽しかった、あのころ。
『……山里、高校』
バスの停留先に書いてあったのは、真子が進学した高校の名前。
気付けば私は、バスに乗っていた。
始めは町を走っていたバスだったけど、だんだんと建物が少なくなっていって、見えたのは山に茂る木々と降り積もった雪だった。
バスは山道に合わせて左右に揺れて、少しずつ走行が遅くなり、次は前後に揺れる。
定刻より十分遅れたというアナウンスを聞きながらバスから降りていくと、一面銀世界という言葉が初めて浮かんだ。
車道にある足跡を追うように歩いていくけど、車も当然走っていて歩道に逸れるとふくらはぎまで積もった雪にローファーと紺の靴下が一瞬で死んだ。
だけど私の足は止まらなかった。
雪が入った足先はベチャベチャして気持ち悪いのに、二回も尻もちをついているのに、ただ見えている校舎に向かって歩いていた。
青色から灰色に変わっていく空を眺めていると、高校の敷地内からチャイムが鳴った。
しばらくすると生徒たちがたくさん出てきて、だんだんとまばらになっていった。
私は、ただ真子を探した。対面したらどうするかなんて考えもせずに、ひたすら。
もしかしたら見逃したのかもしれない。いや、見た目が変わりすぎていて分からなかったのかもしれない。
帰ろうか、もう少し待とうか。そんなことをぼんやりと考えていると、心臓がドクンと鳴った。
制服のスカートにジャージのズボンを履いて、極めつけにはおじさんが履きそうな長靴で歩いていることに、何とも言えない気持ちになった。
あ、でも、髪は伸ばしたんだ。……良かった。
どんどんと近付いてくると顔はハッキリ見えてくるけど、何かが違う。
笑い方、こんな感じだっけ? 目も、口元も、何かが違う。
そんなことをボンヤリ思っていると、とうとう真子はこっちに目を向けてきて視線が合った。
この時に確信した。
真子は顔付きも、笑い方も、相手に向ける目も全てが変わったんだって。
変えたのは、私だ。
『真子、どした?』
『知り合い?』
私を見て立ち尽くす真子に、囲むようにいた女子二人は肩を叩いたり、覗き込んだりして様子を見ている。
『あ、私は、真子と同じ中学で、と、とも……』
違う。ホントに友達なら、真子をこんな顔にさせない。
こんな、泣きそうな顔になんか。
そう思うと鼻がツンとして、これ以上言葉にならなかった。
『大丈夫?』
『一緒に居ようか?』
『……ありがとう。だ、大丈夫だから』
真子の友達だと思われる人たちは『じゃあ、明日ね』と声をかけて私に頭を下げて帰って行った。
『わ、私……、あのころは、ホントどうかしてて……。ずっと、後悔してて……。謝んなきゃと思ってたけど、家とか行ったらメイワクかなとか考えてて……。真子……、本当にごめんなさい』
顔を上げたら、真子は居なかった。
当然だ。あんな謝罪、受け入れてもらえるはずない。
友達に裏切られた真子の気持ちは置いてきぼりで、私はただ言い訳を並べていた。
自分の気持ちばっかで、真子の気持ちを考えず言い分を一切聞かなかった。
ここに来たのだってそう。新たな世界で新たな友達を作って私のことなんかとっくに過去のことにしていただろうに、いきなり押し掛けたらメイワクとか一切考えられていなかった。
ただカタチだけでも謝って、自分が楽になりたかっただけ。今の環境が辛いから、真子に会いたいと思ってしまっただけ。
そこに誠意なんて、何一つなかった。



