同じ日の違う記憶

『みんなでモールいくの、私やめとくね』
 六月の掃除担当の場所は、屋上に続く階段だった。日の入りが悪くて、しかも今日は雨が降っていて、いつも以上に薄暗い。
 真子と私は同じ班になり、私がホウキ、真子がちりとり担当で俯いている時にそう言った。

『……え、なんで?』
 不意にちりとりを持ち上げたから、せっかく寄せた砂や埃が舞い散る。いつもの真子なら「ごめん」と言いながら私からホウキを取って掃除のやり直しをしそうなのに、今日はちりとりを持ったまま立ち尽くしていた。

『あー、実はお小遣いヤバくてさぁー』
 パッパと散らばったゴミをホウキで集めていくけど、声はどんどんと小さくなっていく。
 二人なら行きたかったよ。
 でも、四人では行きたくないの。
 太ってる私と一緒にいて恥ずかしいと言ってる人たちと、ショッピングモールになんか行きたくないに決まってるじゃない。

『大丈夫、お金貸すから』
『そんなこと出来ないよ!』
 真子? どうしちゃったの?
 プレゼントは五百円以内、友達同士でお金がどうとかはしない。
 それは小学四年の時に五人グループで町に遊びに行く時に、みんなで決めたことだったじゃない?
 それはずっと続いていて、お金の持ち合わせがない時は諦めるのが暗黙のルールだった。
 ねえ、何で? 真子、怖いよ!

『ねえ、雅。大丈夫だから。私はずっと側にいるし、ぜったい雅を一人になんかしないよ。だから、だからさ。みんなで仲良くしようよ! みんなで遊びに行こうよ!』
 私の肩を掴んで離さない真子が見ているのは、私ではなくて、私の瞳に映っているものだった。
 だから、だから。
 ……ごめん、ムリだなぁ。みんなで仲良くなんて。
 だって二人は、真子さえいれば良いんだから。
 私を真子のひっつき虫のように扱って、摘んで捨てようとする人たちだよ?
 ムリ、ムリ、ぜったいムリっ!

 だから私を摘もうとする手を、止めると決めたの。
 私はひっつき虫以上の価値はない。だから真子に……。


『……あの、少しお話が……』
 中学二年生の一学期、中間テストが終わった後だった。放課後の委員会集まりに行っていた真子を待っている時、初めて二人に話しかけたのは。
 初めは窓を叩く雨音のせいで聞こえないのかと思うぐらいに私をムシして、週末にショッピングモールに行くハナシで盛り上がっていたけど、真子のことだと言うとこっちに顔を向けてきた。
 やっと視線が合った。まあ、最初で最後だろうけどね。

『真子って……』

 もし、人生の悔いを一つだけ修正したら良いと神様に言われたら。大好きなおばあちゃんの死に目に会えたなかったことより、この時のことを変えるだろう。