「きみ、やっぱりまた来たね」
「……え?」
空を見上げていたから気づかなかった。
すぐそばまで、誰かの気配が迫っていることに。
声の方へと顔を向けると、そこには昼間に会った男性が佇んでいた。
「あなたは……お昼の。どうしてまたここに……?」
どうしてもこうしても、自分の会社の持ち物を頻繁に見にくるのはそれほど不思議ではない。けれど、一日に二度も会うとは思わなかったから、素直に驚いた。
「驚かせてすまない。きみのことが気になって。最近、夜中の時間帯に観覧車が動いてる形跡があったから、もしかしてきみが乗っているのかと思ってね」
「……ご、ごめんなさい」
他人の所有物を勝手に動かしていたことを責められていると思った私は、すぐさま平謝りした。
「いや、いいんだ。それより、きみはいつも一人で観覧車に乗っているわけじゃないよね。誰と乗ってるか、教えてもらえないかな」
「……同じ、高校生の男の子と」
一瞬、答えてしまってもいいのかと迷ったけれど、おじさんは悪い人ではなさそうなので、軽く答えた。
「高校生か」
私の言葉を聞いて、おじさんは何を思ったのか、一度押し黙り、何か思案している様子だった。
「その子の名前……は、さすがに聞けないか。きみにとっては、私も十分怪しい人間だろうからね。私は、こういう者です」
彼は胸元のポケットから名刺を取り出し、私に差し出した。
株式会社リーフーズ/創作料理梨の花
代表取締役 葉加瀬健斗
名刺に書かれた名前を見て、ほんの一瞬息が止まった。
「葉加瀬……健斗、さん」
葉加瀬。
梨斗と同じだ。
珍しい苗字なので梨斗以外に会ったことはない。それに、名前のところも、梨斗と同じ「斗」が入っている。
よく見れば垂れ目なところとか、柔らかい表情が梨斗にそっくりだ。
この人、もしかして梨斗のお父さん……?
気づいてしまえば、梨斗の名前を伝えようか迷った。
けれど、もし梨斗のお父さんならば、梨斗が夜中にここに来ていることを知っているのではないか? 彼の口ぶりからして、自分の息子がこの遊園地に来ていることを、知らない様子だった。二人の間には、何か特別な事情があるような気がして、気軽に梨斗の名前を出すことができなかった。
「名前を伝えたところでどうしようもないと思うけど。何か困ったことがあったらいつでも訪ねておいで。電話番号も名刺に載ってるから」
「は、はい」
困ったこと、と言われて瞬時に祖母の顔が頭に浮かんだ。
この人は私の家庭の事情なんて知らないはずなのに、どうしてこんなふうに声をかけてくれるんだろう。
「それじゃ、今日のところはこれで。観覧車、楽しんでくれたら嬉しい」
「あ、ありがとうございます」
まさか、遊園地の持ち主から、勝手に使用している観覧車をそのまま使い続けていい、というふうに言われるとは思っていなかった。葉加瀬さんはすぐに踵を返して駅の方へと歩いていく。
結局、彼はどうして私に話しかけてきたんだろう。
単に興味を持っただけだろうか。
それとも、やっぱり梨斗と何かあって、私から情報を聞き出そうとしていたのだろうか。
分からない。けれど今は、梨斗を待ち続けるしかなかった。
「……え?」
空を見上げていたから気づかなかった。
すぐそばまで、誰かの気配が迫っていることに。
声の方へと顔を向けると、そこには昼間に会った男性が佇んでいた。
「あなたは……お昼の。どうしてまたここに……?」
どうしてもこうしても、自分の会社の持ち物を頻繁に見にくるのはそれほど不思議ではない。けれど、一日に二度も会うとは思わなかったから、素直に驚いた。
「驚かせてすまない。きみのことが気になって。最近、夜中の時間帯に観覧車が動いてる形跡があったから、もしかしてきみが乗っているのかと思ってね」
「……ご、ごめんなさい」
他人の所有物を勝手に動かしていたことを責められていると思った私は、すぐさま平謝りした。
「いや、いいんだ。それより、きみはいつも一人で観覧車に乗っているわけじゃないよね。誰と乗ってるか、教えてもらえないかな」
「……同じ、高校生の男の子と」
一瞬、答えてしまってもいいのかと迷ったけれど、おじさんは悪い人ではなさそうなので、軽く答えた。
「高校生か」
私の言葉を聞いて、おじさんは何を思ったのか、一度押し黙り、何か思案している様子だった。
「その子の名前……は、さすがに聞けないか。きみにとっては、私も十分怪しい人間だろうからね。私は、こういう者です」
彼は胸元のポケットから名刺を取り出し、私に差し出した。
株式会社リーフーズ/創作料理梨の花
代表取締役 葉加瀬健斗
名刺に書かれた名前を見て、ほんの一瞬息が止まった。
「葉加瀬……健斗、さん」
葉加瀬。
梨斗と同じだ。
珍しい苗字なので梨斗以外に会ったことはない。それに、名前のところも、梨斗と同じ「斗」が入っている。
よく見れば垂れ目なところとか、柔らかい表情が梨斗にそっくりだ。
この人、もしかして梨斗のお父さん……?
気づいてしまえば、梨斗の名前を伝えようか迷った。
けれど、もし梨斗のお父さんならば、梨斗が夜中にここに来ていることを知っているのではないか? 彼の口ぶりからして、自分の息子がこの遊園地に来ていることを、知らない様子だった。二人の間には、何か特別な事情があるような気がして、気軽に梨斗の名前を出すことができなかった。
「名前を伝えたところでどうしようもないと思うけど。何か困ったことがあったらいつでも訪ねておいで。電話番号も名刺に載ってるから」
「は、はい」
困ったこと、と言われて瞬時に祖母の顔が頭に浮かんだ。
この人は私の家庭の事情なんて知らないはずなのに、どうしてこんなふうに声をかけてくれるんだろう。
「それじゃ、今日のところはこれで。観覧車、楽しんでくれたら嬉しい」
「あ、ありがとうございます」
まさか、遊園地の持ち主から、勝手に使用している観覧車をそのまま使い続けていい、というふうに言われるとは思っていなかった。葉加瀬さんはすぐに踵を返して駅の方へと歩いていく。
結局、彼はどうして私に話しかけてきたんだろう。
単に興味を持っただけだろうか。
それとも、やっぱり梨斗と何かあって、私から情報を聞き出そうとしていたのだろうか。
分からない。けれど今は、梨斗を待ち続けるしかなかった。



