「対策本部を立てよう」

 志摩先生が二年二組にやってきて一ヶ月以上が経った、十月半ば。
 昼休みにクラスの全員で話し合いを行うことになった。
 志摩先生が担任になってからあまりに窮屈すぎる日常に鬱憤が溜まっていたのはみんな同じなようで、誰一人として、昼休みを返上することに異論を唱える者はいなかった。

 私はなぜか、和真と一緒に教壇に立っている。和真に、「心音、俺と一緒に闘わないか」と誘われたからだ。彼にそう誘われてしまっては、断る理由はない。それに私だって、ずっと嘘をつくことを恐れてあと半年間も志摩先生のクラスの生徒でいることに、限界を感じていた。
 いつもはっきりと意見を口にする和真は二組のみんなから慕われていた。みんなの視線がじっと私や和真に注がれている。

「みんな、今日まで志摩先生にどんな嘘をついてきた? 思い出してみて」

 和真が全員の顔を見回しながら問いかける。

「数学の授業で分からない問題なのに、分かってるふりをした」

「小テストで点数誤魔化した」

「宿題を写したのに自分がやったと嘘ついた」

「俺は、志摩先生に会いたくなさすぎて家庭の事情で欠席ですって電話で嘘ついて休んだ」

「私もサボったことある……」

 みんなが口々にこれまで先生の前でついてきた嘘をぼやき始める。和真は「うんうん」と頷きながら真剣にみんなの話を聞いていた。

「そうだよな。みんな、些細な嘘ぐらい一回はつくもんだ。それを全部晒しものにされてたらたまったもんじゃない。この中にもいるだろ? たった一回の嘘で、生活をめちゃくちゃにされた人」

 和真のこの言葉には、田中くんと天海さんが肩を震わせた。二人は結局あの後別れてしまった。しかもあんなかたちで別れることになってしまったせいか、二人は今、同じ教室の中で居心地悪そうに過ごしている。

「もう志摩先生のクラスはヤダ……」

「あたしも。やってらんない!」

「早く三年生にならねえかな」

「三年になってもまた担任になる可能性あるだろ。数学だってやつが担当になるかもしれない」

「うわっ、それ最悪。原田先生戻ってきてー」

 みんなが口々に不満をこぼす。今まで何の不自由もなかった高校生活が、たった一人の真実至上主義者である先生によって卒業まで脅かされてしまうのだから、無理もない。

「だからこそ、俺たちの方から行動を起こそうと思うんだ」

「行動って何するんだ?」

「俺や心音で先生を説得しにいく。失敗したらみんなにも手伝ってもらうかもしれないけど、まずは俺たちに任せてくれ」

「え!?」

 驚いたのは言うまでもなく私だ。
 正義感に燃える和真の目を見つめる。
 「いいよな?」と私に有無を言わさない力が宿っていた。
 もちろん、みんなの前で「嫌だ」とは言えない。それに、私だってこのまま志摩先生の言いなりになるばかりでは窮屈な学校生活を送ることになるんだし。ここはみんなのためにも、和真の期待に応えるためにも協力せざるを得ないだろう。

「わ、分かった。私と脇田くんで、一度頑張ってみます」

 クラスのみんなは私と和真が付き合っていることを知っている。誰も反対する人はいなかった。「相変わらず仲良いな」と揶揄ってくる人もいたけれど、日常茶飯事だ。