「心音も明日美波ちゃんの誕生日会来るよね?」
四年三組の教室で、一葉が私の顔を覗き込むようにして聞いた。昼休み、ポカポカと暖かな窓際の席で本を読んでいた。児童向けのミステリー小説にハマっていて、ちょうどもうすぐ犯人が暴かれるというタイミングだった。
「え、誕生日会あるの?」
本からパッと顔を上げて一葉と目を合わせる。美波ちゃんは、四年三組の中でいちばん可愛くて、おしゃれで、お母さんも美人で、みんなの人気者だった。
「うん。あれ、聞いてなかった?」
「……聞いてないな」
「そっかー、じゃあウチから美波ちゃんに、心音も行くからって伝えておくね! 美波ちゃんはダメって言わないと思うから。明日の二時に、駅前に集合です〜」
自分だけ誕生日会に誘われていないということを知り多少もやもやしたものの、一葉が美波ちゃんに聞いてくれるというので安心した。一葉はこのクラスで一番の友達だ。ほっと胸を撫で下ろすと、一葉が少し意地悪そうな笑顔を浮かべた気がする。気のせいかも、と思い直してひとまず明日、美波ちゃんの誕生日会に行こうと決意した。
翌日の土曜日、待ち合わせ場所に指定された駅前で、一葉を待っていた。一葉の他にも、一葉と仲良しの数人が一緒に集合するのだと予想していた。
しかし、約束の十四時になっても、一葉は来なかった。
一葉だけじゃなくて、クラスメイトは誰も待ち合わせ場所に現れない。
嫌な予感がして、私は携帯を取り出す。
お母さんが持たせてくれているキッズ携帯で、一葉にSMSで【遅れてる?】とメッセージを送った。
待つこと一時間。ようやく返ってきた返信を見て絶句する。
【あ〜ごめん。今日美波ちゃんの誕生日会って嘘! 本当は先週終わってるの】
画面の向こうから私を嘲笑う声が聞こえてきそうだった。
嘘……?
一体どうして一葉がそんな嘘をついてきたのかと疑問に思った。でもそれ以上に、友達だと思っていた人に嘘をつかれて待ちぼうけをくらわされたことがショックだった。
一番の友達だと思っていたのに。
私は、一葉のことが好きだったのに。
その日以降、教室で一葉は私に話しかけて来なくなった。一葉だけじゃない。一葉と仲良しだったクラスメイトや美波ちゃんも誰も私に話しかけてこない。
いじめなんていうはっきりとした嫌がらせはなかった。けれど、あの一つの嘘がきっかけで、私は小学校の教室で自分の居場所をなくしてしまった。
五年生に上がり、一葉とクラスが離れたことで、私の交友関係はリセットされた。正直ほっとした。五年生では特に問題なく、仲の良い友達と過ごしていた。
あとで知った話だけれど、一葉が私に嘘をついたのは、一葉が好きだったクラスメイトの男の子が私に恋をしていると知ったから、らしい。
そんな理由で——と怒りを覚えないわけではなかった。
でも、恋する乙女の気持ちを察するに、私に嫌がらせをしたいと思っても仕方がないのかもしれない。
私はその男の子と特に仲が良かったわけでもないし、告白されたわけでもない。
……まして、好きだと思ったことも——。
ただ、二つの恋が原因で友達に陰湿な嘘をつかれた経験は、高校二年生になった今でもずっと心に引っかかっている。
四年三組の教室で、一葉が私の顔を覗き込むようにして聞いた。昼休み、ポカポカと暖かな窓際の席で本を読んでいた。児童向けのミステリー小説にハマっていて、ちょうどもうすぐ犯人が暴かれるというタイミングだった。
「え、誕生日会あるの?」
本からパッと顔を上げて一葉と目を合わせる。美波ちゃんは、四年三組の中でいちばん可愛くて、おしゃれで、お母さんも美人で、みんなの人気者だった。
「うん。あれ、聞いてなかった?」
「……聞いてないな」
「そっかー、じゃあウチから美波ちゃんに、心音も行くからって伝えておくね! 美波ちゃんはダメって言わないと思うから。明日の二時に、駅前に集合です〜」
自分だけ誕生日会に誘われていないということを知り多少もやもやしたものの、一葉が美波ちゃんに聞いてくれるというので安心した。一葉はこのクラスで一番の友達だ。ほっと胸を撫で下ろすと、一葉が少し意地悪そうな笑顔を浮かべた気がする。気のせいかも、と思い直してひとまず明日、美波ちゃんの誕生日会に行こうと決意した。
翌日の土曜日、待ち合わせ場所に指定された駅前で、一葉を待っていた。一葉の他にも、一葉と仲良しの数人が一緒に集合するのだと予想していた。
しかし、約束の十四時になっても、一葉は来なかった。
一葉だけじゃなくて、クラスメイトは誰も待ち合わせ場所に現れない。
嫌な予感がして、私は携帯を取り出す。
お母さんが持たせてくれているキッズ携帯で、一葉にSMSで【遅れてる?】とメッセージを送った。
待つこと一時間。ようやく返ってきた返信を見て絶句する。
【あ〜ごめん。今日美波ちゃんの誕生日会って嘘! 本当は先週終わってるの】
画面の向こうから私を嘲笑う声が聞こえてきそうだった。
嘘……?
一体どうして一葉がそんな嘘をついてきたのかと疑問に思った。でもそれ以上に、友達だと思っていた人に嘘をつかれて待ちぼうけをくらわされたことがショックだった。
一番の友達だと思っていたのに。
私は、一葉のことが好きだったのに。
その日以降、教室で一葉は私に話しかけて来なくなった。一葉だけじゃない。一葉と仲良しだったクラスメイトや美波ちゃんも誰も私に話しかけてこない。
いじめなんていうはっきりとした嫌がらせはなかった。けれど、あの一つの嘘がきっかけで、私は小学校の教室で自分の居場所をなくしてしまった。
五年生に上がり、一葉とクラスが離れたことで、私の交友関係はリセットされた。正直ほっとした。五年生では特に問題なく、仲の良い友達と過ごしていた。
あとで知った話だけれど、一葉が私に嘘をついたのは、一葉が好きだったクラスメイトの男の子が私に恋をしていると知ったから、らしい。
そんな理由で——と怒りを覚えないわけではなかった。
でも、恋する乙女の気持ちを察するに、私に嫌がらせをしたいと思っても仕方がないのかもしれない。
私はその男の子と特に仲が良かったわけでもないし、告白されたわけでもない。
……まして、好きだと思ったことも——。
ただ、二つの恋が原因で友達に陰湿な嘘をつかれた経験は、高校二年生になった今でもずっと心に引っかかっている。



