「この国は、女性が戦うことは許していないかもしれない。でも、結葵様が蝶と戦うことを望むのなら、その気持ちを尊重したい」
年下の少女の勇気に深く感銘し、自身の気の持ちようが何よりも大切だと学ぶ。
「……来栖さんと出会うまでは、考えたことがありませんでした」
来栖さんが言う《《『戦う』》》とは、紫純琥珀蝶を殺すということ。
狩り人の悠真様に協力するかたちで、蝶と人間の言葉を繋ぐ役割を担うのとは意味が違う。
だからこそ、自分の気持ちがどこにあるかを定めておかなければいけないということ。
「もちろん、女性は守られるべき存在って考えも間違いじゃない」
「……ありがとうございます」
朱色村に、紫純琥珀蝶が飛ばなくなる。
そんな時代が来るのか来ないのか、考えたこともない未来に想いを馳せる
「むしろ悠真くんや初は、女性は守るべき存在だと思っている側の人間」
けれど、ほんの少しでも胸に希望を抱いてもらえるような存在に、私もなることができる。
来栖さんは、希望のある言葉を私に与えてくれる。
「でも、戦うことを選んだとしても、それも悪じゃない」
いつか変わってしまう変化に耐えられるように。
自分を見失わないで強くいられるように。
たくさんの夢や希望を抱いて生きる力を来栖さんは私に分けてくれる。
「悠真くんは、結葵様のことをずっと心配してた」
私と悠真様が、出会って間もない関係というのは違えることのない事実。
紫純琥珀蝶と言葉を交わすことができるだけで、こんなにも優しくしてもらってもいいのかと思ってしまうほど悠真様は優しい。
「結葵様が、希望ある生き方をできるかどうか」
来栖さんはそう言って、優しい笑みを向けてくれた。
一気に空気が優しいものへと変化を遂げたような気がして、別れたばかりの悠真様に会いたいと心臓の高鳴りがうるさくなる。
「蝶に縛られる人生になったら、意味がないって」
少女らしい声で語りかけてくる来栖さんだけれど、彼女の口から発せられる言葉のひとつひとつには重みがある。
「悠真くんは、とても良い人。でも、過保護」
「ふふっ、かもしれませんね」
私の傍にいてくれる人たちは、どうしてこんなにも優しい人が多いのか。
みなさんの人生は優しさの塊でできているのかもしれない。
「人が他人に優しくできるのは、多くの傷を刻まれてきたからだと何かの書物で読んだことがあります」
傷ついたことがあるから、人に優しくすることができる。
私が紫純琥珀蝶と言葉を交わし始める前に、出会った言葉を思い出す。
いつ、誰が、どこで、という記憶は残っていない。
でも、この言葉は、紫純琥珀蝶と共存する時代を生きる相応しいのではないかと思う。
「結葵様が夢を抱けなかったら、外に出る意味がない」
「……ありがとうございます」
「でも、大丈夫そう」
短い言葉の中に、来栖さんは私に安堵の気持ちを込めてくれる。
「お気遣い……ありがとうございます」
なるべく他人に心配をかけない人生を歩みたいとは思うけど、こうして自分を心配してくれる人が傍にいてくれるのはとても心強い。
「……悠真様が喜ぶこと、たくさんしてあげたいです」
「いいと思う」
「できたら……平和な世界を歩んでもらいたいです」
「うん」
たかが、そんな夢。
でも、いいなと思う。
未来に希望を抱くのは素敵なことだってことを、来栖さんは教えてくれる。
「蝶を滅ぼすのか、蝶が飛ばなくなる日が来るのはわからないから」
「先は遠そうですね」
「でも、いいの。生きている限り、可能性は無限大だから。何歳になっても、悠真くんとの時間は続く。結葵様は夢を叶えることができる」
来栖さんと話をしているだけなのに、どうしてこんなにも明るい気持ちになれるのか。
ずんと気持ちが沈んでしまいそうな先の見えない未来の話をしているのに、どうしてこんなにも希望溢れる未来を描くことができるようになるのか。
出会ったばかりの来栖さんの魅力に、私は引きつけられていく。
「……不謹慎な言い方かもしれませんが」
「結葵様?」
「私は、来栖さんたちと出会えて良かったと思います」
紫純琥珀蝶を通して、結ばれた縁。
それを素直に喜んでいいのか分からなかったから、こんな言葉の紡ぎ方になってしまった。
狩り人の人たちとの出会いは、私の人生を彩ってくれるくらい素敵なもの。
その自覚はあるのに、出会えたことを祝福する勇気と自信はとても小さなものだった。
「出会ってくれて、ありがとうございます」
「結葵様と出会うことができて、悠真くんも心が救われていると思う」
来栖さんは私よりもだいぶ年下に見えるのに、こんなにも人を気遣うのがお上手で羨ましい。
「救われているなんて、大袈裟です」
「悠真くんの瞳も、生きて見えるようになったから」
都会のような夜の闇を照らすための電灯が、朱色村にはまだ存在しない。
月明かりと星明かりだけが頼りの村は薄気味悪いはずなのに、どこか幻想的にさえ見えてくる村に心を奪われずにはいられなかった。
「朱色村は、ほんの少し平和な場所」
足元に注意を払いながら、木々の向こう側に見える朱色村に視線を向けていたとき。
来栖さんは、ここが美しい場所と言わんばかりの声色でぽつりと呟いた。
「蝶たちの話を聞く限り、朱色村は蝶の数が少ないと伺っています」
「朱色村は蝶の数が少ないから、狩り人が訪れることは滅多にない」
人々の記憶を奪う紫純琥珀蝶が飛び交う世界というのなら、蝶の数が少ない朱色村にこそ需要があると考える人がいても可笑しくはない。それなのに、朱色村の富が潤うような話を聞いたことは一切ない。
「……まるで、蝶に守られた村みたいですね」
「……結葵様がいるからかもしれない」
来栖さんの言葉を受けて、あながち間違いではないのかもしれないとおとぎ話のような話を妄想する。
年下の少女の勇気に深く感銘し、自身の気の持ちようが何よりも大切だと学ぶ。
「……来栖さんと出会うまでは、考えたことがありませんでした」
来栖さんが言う《《『戦う』》》とは、紫純琥珀蝶を殺すということ。
狩り人の悠真様に協力するかたちで、蝶と人間の言葉を繋ぐ役割を担うのとは意味が違う。
だからこそ、自分の気持ちがどこにあるかを定めておかなければいけないということ。
「もちろん、女性は守られるべき存在って考えも間違いじゃない」
「……ありがとうございます」
朱色村に、紫純琥珀蝶が飛ばなくなる。
そんな時代が来るのか来ないのか、考えたこともない未来に想いを馳せる
「むしろ悠真くんや初は、女性は守るべき存在だと思っている側の人間」
けれど、ほんの少しでも胸に希望を抱いてもらえるような存在に、私もなることができる。
来栖さんは、希望のある言葉を私に与えてくれる。
「でも、戦うことを選んだとしても、それも悪じゃない」
いつか変わってしまう変化に耐えられるように。
自分を見失わないで強くいられるように。
たくさんの夢や希望を抱いて生きる力を来栖さんは私に分けてくれる。
「悠真くんは、結葵様のことをずっと心配してた」
私と悠真様が、出会って間もない関係というのは違えることのない事実。
紫純琥珀蝶と言葉を交わすことができるだけで、こんなにも優しくしてもらってもいいのかと思ってしまうほど悠真様は優しい。
「結葵様が、希望ある生き方をできるかどうか」
来栖さんはそう言って、優しい笑みを向けてくれた。
一気に空気が優しいものへと変化を遂げたような気がして、別れたばかりの悠真様に会いたいと心臓の高鳴りがうるさくなる。
「蝶に縛られる人生になったら、意味がないって」
少女らしい声で語りかけてくる来栖さんだけれど、彼女の口から発せられる言葉のひとつひとつには重みがある。
「悠真くんは、とても良い人。でも、過保護」
「ふふっ、かもしれませんね」
私の傍にいてくれる人たちは、どうしてこんなにも優しい人が多いのか。
みなさんの人生は優しさの塊でできているのかもしれない。
「人が他人に優しくできるのは、多くの傷を刻まれてきたからだと何かの書物で読んだことがあります」
傷ついたことがあるから、人に優しくすることができる。
私が紫純琥珀蝶と言葉を交わし始める前に、出会った言葉を思い出す。
いつ、誰が、どこで、という記憶は残っていない。
でも、この言葉は、紫純琥珀蝶と共存する時代を生きる相応しいのではないかと思う。
「結葵様が夢を抱けなかったら、外に出る意味がない」
「……ありがとうございます」
「でも、大丈夫そう」
短い言葉の中に、来栖さんは私に安堵の気持ちを込めてくれる。
「お気遣い……ありがとうございます」
なるべく他人に心配をかけない人生を歩みたいとは思うけど、こうして自分を心配してくれる人が傍にいてくれるのはとても心強い。
「……悠真様が喜ぶこと、たくさんしてあげたいです」
「いいと思う」
「できたら……平和な世界を歩んでもらいたいです」
「うん」
たかが、そんな夢。
でも、いいなと思う。
未来に希望を抱くのは素敵なことだってことを、来栖さんは教えてくれる。
「蝶を滅ぼすのか、蝶が飛ばなくなる日が来るのはわからないから」
「先は遠そうですね」
「でも、いいの。生きている限り、可能性は無限大だから。何歳になっても、悠真くんとの時間は続く。結葵様は夢を叶えることができる」
来栖さんと話をしているだけなのに、どうしてこんなにも明るい気持ちになれるのか。
ずんと気持ちが沈んでしまいそうな先の見えない未来の話をしているのに、どうしてこんなにも希望溢れる未来を描くことができるようになるのか。
出会ったばかりの来栖さんの魅力に、私は引きつけられていく。
「……不謹慎な言い方かもしれませんが」
「結葵様?」
「私は、来栖さんたちと出会えて良かったと思います」
紫純琥珀蝶を通して、結ばれた縁。
それを素直に喜んでいいのか分からなかったから、こんな言葉の紡ぎ方になってしまった。
狩り人の人たちとの出会いは、私の人生を彩ってくれるくらい素敵なもの。
その自覚はあるのに、出会えたことを祝福する勇気と自信はとても小さなものだった。
「出会ってくれて、ありがとうございます」
「結葵様と出会うことができて、悠真くんも心が救われていると思う」
来栖さんは私よりもだいぶ年下に見えるのに、こんなにも人を気遣うのがお上手で羨ましい。
「救われているなんて、大袈裟です」
「悠真くんの瞳も、生きて見えるようになったから」
都会のような夜の闇を照らすための電灯が、朱色村にはまだ存在しない。
月明かりと星明かりだけが頼りの村は薄気味悪いはずなのに、どこか幻想的にさえ見えてくる村に心を奪われずにはいられなかった。
「朱色村は、ほんの少し平和な場所」
足元に注意を払いながら、木々の向こう側に見える朱色村に視線を向けていたとき。
来栖さんは、ここが美しい場所と言わんばかりの声色でぽつりと呟いた。
「蝶たちの話を聞く限り、朱色村は蝶の数が少ないと伺っています」
「朱色村は蝶の数が少ないから、狩り人が訪れることは滅多にない」
人々の記憶を奪う紫純琥珀蝶が飛び交う世界というのなら、蝶の数が少ない朱色村にこそ需要があると考える人がいても可笑しくはない。それなのに、朱色村の富が潤うような話を聞いたことは一切ない。
「……まるで、蝶に守られた村みたいですね」
「……結葵様がいるからかもしれない」
来栖さんの言葉を受けて、あながち間違いではないのかもしれないとおとぎ話のような話を妄想する。