「うわぁ」
「すごっ」

 でも、屋上に織原くんの姿は見当たらない。
 でも、屋上では歓声が沸き上がっている。
 織原くんが亡くなったことで静まっていた空気に、いつもらしさが戻って正直ほっとした。

(私たち、ちゃんといつも通りだよ)

 私たちの高校の屋上はコンクリートの色ではなく、コンクリートに緑色の塗料が塗られている。
 この緑色はなんのために塗られた色なのか考えたこともなくて、私の高校の屋上は緑の色が広がっているって事実が当たり前のように溶け込んでいた。

(そっか……)

 でも、今日、高校三年間を終える最後の最後に、屋上が緑色で塗られていることの意味を実感することができた。
 この緑色は、織原くんたち美術部部員がチョークアートを完成させるために存在していた色。

(緑は、今日の日のためにあったんだね)

 屋上に描かれたチョークアートは、桜の花びらが舞う草原が舞台。
 もともと存在していた緑は、草原。
 そこに桜の花びらが咲き誇って、卒業生たちの門出を祝福する。
 そして、1匹の強大な鯨が夢や希望を運ぶために草原を飛び回っている。
 誰も夢や希望を運ぶためなんて説明をしてはいないのに、私にはそんな風に感じられた。
 この鯨は、卒業生たちのために駆けつけてくれたんだってことを強く実感できる。

「撮影準備が整うまで、少し待ってて」

 この、チョークアートのデザインは誰が描いたものですか。
 美術部の人に聞けば、きっとその答えをくれる。

(でも、私は織原くんの声で聞きたかった)

 それは叶わぬ夢となってしまったけど、織原くんがいないのなら答えを知らないまま卒業をしようと意を決する。

「屋上の上から、なんか叫んでみる?」
「えー、恥ずかしくない?」
「でも、今日が最後だよ?」

 深い付き合いはなかったけど、三年生になった私を迎え入れてくれたクラスメイトの後に続く。
 フェンスがなかったら落ちてしまうってところまで近づくと、足元に私と織原くんが描いた桜の花びらが落ちていることに気づく。

「藤島さんも、どう?」
「藤島さんは、そういうタイプじゃないから」

 苦笑いを浮かべながら、私は遠慮するって表情をクラスメイトの二人に向ける。

「ほら、藤島さんは真面目……」
 
 可哀想という、言葉の意味が分からなかった。
 純粋という、言葉の意味がよく分からなかった。
 でも、今なら、なんとなく、その意味が分かるような気がする。

「二人の叫び、聞かせて」

 今日の私は、マスクをつけていない。
 卒業式と教室ではつけていたけど、屋上に来たと同時にマスクを外した。
 私は自分の声で、自分の言葉で、私と一年という時間を過ごしてくれたクラスメイトに青春の叫びを促す。
 すると、彼女たちよりも早く、卒業生たちは最後の叫びを屋上へと響かせ始める。