ディブのお陰で、話はトントン拍子に進んでいく。

レジーナは、気付く。

借り手がつかないのは、使用人達にも、問題があるかもしれない。リジーの様に。しかし、それは、些細なこと。要は、コリンズが、怠慢なだけではなかろうかと。

ただ、借り主は、ディブの紹介。トントン拍子も、当然といえば当然なのかもしれないが。

そして、屋敷の裏方は、悩んでいた。

ビートンは、借り主、レミー・プルフェィン卿の希望をコリンズ経由で、手に入れていた。それを、厨房の隣に備わる控え室で、パンと、くず野菜のスープという質素な食事を摂っている使用人達へ告げたのだった。

「泊まり客は、居ない。招待客は十数名の予定……」

「ビートン、このディナーのリクエストは、なんだ!フィッシュ&チュプス大盛り?!おまけに、シェリー酒、シャンパン、ウイスキー、ジンだって?!」

ビートンの言葉を遮るように、料理長のマクレガーが、文句を言った。

「パーツィィーって、言うより、パブで盛り上がる感じじゃねぇっすか?」

スープを啜りながら、調理助手のジョンが、訛り丸出しで、マクレガーが言わんとすることを続ける。

「シーズン初のお客様!掃除に気合い入れなきゃ!」

リジーだけは、喜んでいた。

「はあーー、そろそろ、至高料理・オートキュイジーヌの出番かと思っていたが」

マクレガーは、ごちそうさんと、言い捨てて、巨体を揺らしながら厨房へ消えた。食材の確認を行うのだろう。

「あー、こりゃ、皿洗いに精一杯で表へ出れねぇなぁ。これじゃー、靴磨きの心付けはもらえねぇ」

ジョンは、悔しげに、ボサボサの髪の毛をかきむしると、フケを落としながら、スープ皿を下げて行く。

「きゃー!ジョン!」

「リジー!さっさと食えよ」

「そうじゃないわ!フケよ!フケ!あたしの、お仕着せにも落ちて来た!」

もう、やだ!と、泣きべそをかきつつ、リジーも席を立つ。

メニューに凝りすぎる料理長、食器を磨かず、客の靴を磨く助手。そして、潔癖癖を他人に押し付ける掃除係(ハウスメイド)。加えて、人嫌いの執事では、客の機嫌を損ねるばかり……。ビートンは、今更ながら、屋敷の不人気に納得しつつも、マクレガーの指摘、貴族らしからぬリクエストに首を傾げたのだった。

その報告を、レジーナは、遅ればせながら聞いた。皆の意見によると……と、ビートンは語った。

「そう、厨房が、そう言うのなら、確かにおかしわね。それで、部屋の設えは?」

「このままで良いとのことです」

「ビートン?その、プルフェィン卿は、ここを下見してないのでしょう?このままと言っても……」

「左様でございますね」

レジーナも、何かおかしいと、感じていた。

「そこで、ご提案ですが、レジーナ様自ら、開かれるパーティーを
お確かめになるというのは、いかがでしょう?ここには、ハウスメイドは、おりましても、メイドは、おりません」

レジーナは、執事の意図が掴めなかった。

ただ、パーティーで、ビートンだけに、給仕を含め全ての表方を任せていたのは不味かったかもしれない。どうしても、仕事が遅くなる。それも、不人気の理由だったのだろう。

「新たにメイドを雇うのは、物入りです。そして、実は、パーティーは三日後に、迫っております」

そして、ビートンが、ブルーの瞳を意味深に細め、

「レジーナ様が、メイドに扮するのが、一番ではないでしょうか?」

と、信じられないことを言ったのだった。