こじんまりしているが為に、レジーナの個人スペースとして、利用している応接間で、騒ぎの関係者達は、気まずそうに顔を付き合わせている。

軽快なノック音と、共に、ビートンが、パーティーで出されていたであろうローストビーフを、サンドウィッチにして、お茶と共に、ワゴンに乗せて来た。

作法的には、誉められる組み合わせではないが、レジーナの兄、ミドルトン卿の事を思って用意したのかもしれない。

たった今、馬車を飛ばして到着した、といった様子では、空腹のはずと、ビートンは読んだのだろう。

さすがに、卿へ、フィッシュ&チップスを出す訳にはいかない。

山の麓へピクニックに出かけるのではないのだから。

ミドルトン卿は、ビートンが、入って来ても、前に座るレジーナとディブを睨み続けており、窓際では、かつらを剥ぎ取られ、中途半端に、変装が残っているコリンズが、渋い顔をしながら、ジョンに見張られていた。

「……ビートン、レジーナに問いただすべきか、あの、道化師へ尋ねるべきか?」

ティーカップを、手際よくセットしながら、ビートンは、左様ですねぇ、と、気の無い返事をしつつ、私が、ご説明できますが?と、何か企んでいるのか、ブルーの瞳を細め、ミドルトン卿へ言った。

「ああ、それが早いかもしれない。そもそも、お前に、呼ばれたのだから」

「ビートンに?」

レジーナは、何も聞いて無いと、正装姿から、あっという間にお仕着せへ着替えている執事を見た。

「それで?」

と、ミドルトン卿は、カップを口へお運びつつ、並べられているサンドウィッチへ視線を落とす。やはり、空腹を抱えている様だが、皆の手前、控えた方が良いだろうと判断したようで、すぐに、用意していたであろう、次の言葉を切り出した。

「この屋敷の借り主は、いや、パーティーは、いつも、この有り様なのかね」

誰に言うという訳でもなく、卿は、呟き、しかめ面を崩さない。

慌てて、ディブが、返事をしようとするが、卿は、受け付けないと、ばかりに、手を降った。

「いつも、ではありません。そもそも、いつも、パーティーはありませんから」

レジーナが、静かに答える。

「……いつも、ではない。いや、いつも、ない。というのは?話が違うぞ」

妹の発言に、卿は、すぐに、ビートンを見る。

レジーナは、話しているのは、自分なのにと、幾ばくか、ムッとしつつも、兄の言っている事が正直、掴めず、やはり、ビートンに、任せた方が良いのだろうと、そのまま、押し黙った。

「はい、レジーナ様の仰る通りです。実際は、借り手のない屋敷と、チェルシー地区でも、有名になっております」

「……ビートン、それは、有名ではなく、悪名、だろう」

卿は、レジーナ同様、話が見えないという素振りを見せた。

すると、

「ですから、私が、見かねて、借り主を探し……」

と、ディブが、口を挟んでくる。

「ええ、私どもを、騙してまで。何をお考えか存じませんが……」

ビートンが、口角を上げて、コリンズを見た。

「ともかく……」

言いながら、ビートンは、どこに忍ばせていたのやら、一冊の帳簿らしきものを取り出して、卿へ、差し出した。

「……収支の報告は、毎月、受けているが?」

何も問題はなかったはずと、卿は、言いたげに、ビートンの差し出す帳簿を手に取ると、目を通した。

とたんに、その表情が、凍り付く。

「……ビートン、私が目にしている内容と、異なるが?」

「はい、いわゆる、裏帳簿です。いえ、正しくは、卿が報告を受けているものが、裏、なのかもしれません」

レジーナは、何が起こっているのか、理解できなかった。

毎月の収支報告は、確かに、レジーナも目を通し、兄へも報告している。その一通りの作業は、ビートンが仕切っていた。

この報告では、兄も、黙ってないだろう。そんな事を思いつつ、赤字経営からの脱却を試みる。そんな、毎日なのに……。前に座るミドルトン卿は、始めて、屋敷の実情を知ったかのような、態度だった。

「ビートン」

レジーナが、言う。

「ビートン、説明を」

ミドルトン卿が言う。

「あの……、屋敷の運営は、実に、上手く行っており、コリンズも、良くやってくれておりまして……」

聞かれてもない、ディブが、また、口を挟む。

「ディブ、それは、君と、君の仲間の頭の中で、だろう?すまないが、口出しするのを、辞めてもらえないかね」

「えっ、あの」

いきなり、釘を差す卿へ、ディブは、返す言葉もなく、顔を歪めた。