戸惑いを隠せない帝へ、中将は、隠し持っていた包みを開けて言った。

「ご無礼は、承知!帝、時が、御座いません!」

言うには、摩訶不思議な話の真相を、帝自らで確かめるべきだと……。

帝からの文を携え、姫の元へ向かっているが、初めは、側仕えが受け取っていたそれを、今は、姫君自らが応じている。時には、待ち遠しかったと、呟くこともあると続けて言った。

「姫君は、帝をお待ちになられているのです!ならば!」

文にしたためられない事情もあるはず、何か、特別な訳があるはず。

中将は、熱く語った。いや、帝を、説得していた。

もはや、お二人は、離れられない仲ではないのか。

仲将の、きつく、それでいて、心からの言葉に、帝も、決心した。

──姫の、一大事。この身は、側にあるべきだと。

大国(おおくに)よ。そなたの、知恵を借りたい」

「はい!お会いになって、語られるのが一番。つきましては……」

時は、夕暮れ。

宮中に仕える者は、帰路につき始めている。

その人混みに紛れて、抜け出せば良い。

夜になれば、人の出入りは、無い。下手に動けば、宿直(とのい)の役目に、すぐ気がつかれてしまう。

「大変不躾と私も心苦しいのですが、どうか、暫く、この大国の従者として、ご辛抱願いませんでしょうか」

先ほどから、差し出しているのは、位低き者の衣裳だった。

これに着替えて、中将の供になり、ここから抜け出す。皆、帝のお顔など、知らないのだから、着る物を変えれば、夕刻の帰宅時のどさくさに紛れて、表へ出ることができるはずだ。

中将は、言い切った。

帝も、なるほどと、感心しつつ、やはり、自分には、姫しかいないのだと、思ったのだった。